特許無効審判とは?
特許無効審判とは、特許が法定の無効理由に該当するときに、利害関係人(権利帰属に係る無効理由については真の権利者)が、その特許を無効にすることについて請求することができる審判をいいます(特許法第123条)。
以下、特許無効審判に関係する主たる条文を確認してみます。
なお、本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。最新かつ正確な情報は、特許庁ホームページでご確認ください。
- 本ページの解説動画1:特許法第123条~第125条の条文解読(特許無効審判1)【動画】
- 本ページの解説動画2:特許法第134条~第134条の2の条文解読(特許無効審判2)【動画】
- 本ページの解説動画3:特許法第134条の3、第164条の2の条文解読(特許無効審判3)【動画】
(特許無効審判)
第123条
特許が次の各号のいずれかに該当するときは、
その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。
この場合において、二以上の請求項に係るものについては、
請求項ごとに請求することができる。
*以下の各号に規定される無効理由の詳細は、特許無効理由【一覧】をご覧ください。
一 その特許が第17条の2第3項(新規事項追加禁止)に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願(外国語書面出願を除く。)に対してされたとき。
二 その特許が
・第25条(外国人の権利享有)、
・第29条(発明該当性、産業上の利用可能性、新規性、進歩性)、
・第29条の2(拡大先願)、
・第32条(不特許事由(公序良俗・公衆衛生))、
・第38条(共同出願)又は
・第39条第1項から第4項まで(先願)
の規定に違反してされたとき(その特許が第38条(共同出願)の規定に違反してされた場合にあつては、第74条第1項(移転請求権)の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。
三 その特許が条約に違反してされたとき。
四 その特許が
・第36条第4項第一号(発明の詳細な説明の記載要件としての実施可能要件・委任省令要件)又は
・第6項(特許請求の範囲の記載要件としてのサポート要件・明確性要件・簡潔性要件)(第四号(委任省令要件)を除く。)
に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとき。
五 外国語書面出願に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が
外国語書面に記載した事項の範囲内にないとき(原文新規事項追加禁止)。
六 その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき(冒認出願)(第74条第1項(移転請求権)の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。
七 特許がされた後において、
・その特許権者が第25条(外国人の権利享有)の規定により特許権を享有することができない者になつたとき、又は
・その特許が条約に違反することとなつたとき。
八 その特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正が
・第126条第1項ただし書若しくは第5項から第7項まで(訂正審判による訂正)(第120条の5第9項(特許異議申立ての手続における訂正)又は第134条の2第9項(特許無効審判の手続における訂正)において準用する場合を含む。)、
・第120条の5第2項ただし書(特許異議申立ての手続における訂正)又は
・第134条の2第1項ただし書(特許無効審判の手続における訂正)
の規定に違反してされたとき(不適法訂正)。
2 特許無効審判は、利害関係人(前項第二号(特許が第38条(共同出願)の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号(冒認出願)に該当することを理由として特許無効審判を請求する場合にあつては、特許を受ける権利を有する者)に限り請求することができる。
3 特許無効審判は、特許権の消滅後においても、請求することができる。
4 審判長は、特許無効審判の請求があつたときは、その旨を当該特許権についての専用実施権者その他その特許に関し登録した権利を有する者に通知しなければならない。
第125条
特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、
特許権は、初めから存在しなかつたものとみなす。
ただし、特許が第123条第1項第七号(後発的無効理由)に該当する場合において、
その特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、
特許権は、その特許が同号に該当するに至つた時から存在しなかつたものとみなす。
(答弁書の提出等)
第134条
審判長は、
審判の請求があつたときは、
請求書の副本を被請求人に送達し、
相当の期間を指定して、答弁書を提出する機会を与えなければならない。
- 答弁書の提出は、義務ではなく任意である。
- 審判長は、答弁書の提出がなくても、手続を進行できる。
2 審判長は、
第131条の2第2項(審判請求書の請求理由の要旨変更補正の許可)の規定により請求書の補正を許可するときは、
その補正に係る手続補正書の副本を被請求人に送達し、
相当の期間を指定して、答弁書を提出する機会を与えなければならない。
ただし、被請求人に答弁書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるときは、この限りでない。
- 審判請求書の請求理由の補正について、無効理由の追加など、要旨変更補正は原則としてできないが、審判長の許可によりできる場合もある(第131条の2第2項)。
- 要旨変更補正が許可された場合、手続補正書の副本を被請求人(特許権者)に送達し、答弁書提出の機会が与えられる。
- ただし、新たに答弁や訂正を要するまでもなく審判請求に理由がない(つまり特許は無効ではない)と認める場合など、特別の事情があるときは、答弁書を提出する機会を与える必要はない。
3 審判長は、第1項又は前項本文の答弁書を受理したときは、その副本を請求人に送達しなければならない。
- 「審判請求書に対する答弁書(第1項)」、「要旨変更補正が許可された場合の手続補正書に対する答弁書(第2項本文)」について、審判長は副本を審判請求人に送達しなければならない。
4 審判長は、審判に関し、当事者及び参加人を審尋することができる。
- 審判長は、当事者だけでなく、参加人にも審尋できる。
- 口頭でも文書でも、審尋できる。
(特許無効審判における訂正の請求)
第134条の2
特許無効審判の被請求人は、
・前条(第134条)第1項若しくは第2項(答弁書の提出)、
・次条(第134条の3:特許有効審決が取り消されて差戻しの判決があつた場合における訂正の請求)、
・第153条第2項(職権審理結果の通知(無効理由通知))又は
・第164条の2第2項(無効審決予告に対する訂正請求)
の規定により指定された期間内に限り、
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる。
ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮
二 誤記又は誤訳の訂正
三 明瞭でない記載の釈明
四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。(【請求項間の引用関係の解消】他の請求項を引用する形の従属項を、引用しない形の独立項に書き下しすること。)
2 二以上の請求項に係る願書に添付した特許請求の範囲の訂正をする場合には、
請求項ごとに前項の訂正の請求をすることができる。
ただし、特許無効審判が請求項ごとに請求された場合にあつては、
請求項ごとに同項の訂正の請求をしなければならない。
- ただし書は、特許無効審判が請求項ごとに請求された場合に、請求項単位で審決の確定を図るためである。
3 前項の場合において、
当該請求項の中に一群の請求項があるときは、
当該一群の請求項ごとに当該請求をしなければならない。
- 「一群の請求項」については、「一群の請求項とは」をご覧ください。
4 審判長は、
第1項の「訂正の請求書」及びこれに添付された「訂正した明細書、特許請求の範囲又は図面」を受理したときは、
これらの副本を請求人に送達しなければならない。
5 審判官は、第1項の訂正の請求が
・同項ただし書各号に掲げる事項を目的とせず、又は
・第9項において読み替えて準用する第126条第5項から第7項までの規定に適合しないことについて、
当事者又は参加人が申し立てない理由についても、審理することができる。
この場合において、当該理由により訂正の請求を認めないときは、
審判長は、審理の結果を当事者及び参加人に通知し、
相当の期間を指定して、意見を申し立てる機会を与えなければならない。
【訂正要件】
- 第134条の2第1項:訂正の目的((1)特許請求の範囲の減縮、(2)誤記誤訳の訂正、(3)明瞭でない記載の釈明、(4)他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること(請求項間の引用関係の解消(書き下し)))
- 第126条第5項:特許明細書等(誤記誤訳の訂正の場合は当初明細書等(外国語書面出願の場合は外国語書面))の範囲内訂正(新規事項追加禁止)
- 第126条第6項:特許請求の範囲の拡張変更禁止
- 第126条第7項:独立特許要件(特許無効審判の請求がされていない請求項に係るものであって、特許請求の範囲の減縮または誤記誤訳の訂正を目的とするものに限る。(第134条の2第9項の読替え))
6 第1項の訂正の請求がされた場合において、
その審判事件において先にした訂正の請求があるときは、
当該先の請求は、取り下げられたものとみなす。
- 複数の訂正請求がなされた場合、先の訂正請求を取下擬制して、最新のものを残す。
7 第1項の訂正の請求は、
同項の訂正の請求書に添付された訂正した明細書、特許請求の範囲又は図面について第17条の5第2項(訂正明細書等の補正)の補正をすることができる期間内に限り、
取り下げることができる。
この場合において、
第1項の訂正の請求を第2項又は第3項の規定により請求項ごとに又は一群の請求項ごとにしたときは、
その全ての請求を取り下げなければならない。
- 訂正請求は、訂正明細書等の補正可能期間内に限り、取り下げることができる。
- 「請求項ごと」又は「一群の請求項ごと」にした訂正請求について、一部取下げは認められない。
- 但し、訂正明細書等の補正により、訂正事項の一部削除は可能である。
8 第155条(審判請求の取下げ)第3項の規定により特許無効審判の請求が請求項ごとに取り下げられたときは、
第1項の訂正の請求は、当該請求項ごとに取り下げられたものとみなし、
特許無効審判の審判事件に係る全ての請求が取り下げられたときは、
当該審判事件に係る同項の訂正の請求は、全て取り下げられたものとみなす。
9 第126条第4項から第8項まで、第127条、第128条、第131条第1項、第3項及び第4項、第131条の2第1項、第132条第3項及び第4項並びに第133条第1項、第3項及び第4項の規定は、第1項の場合に準用する。
この場合において、第126条第7項中「第1項ただし書第一号又は第二号」とあるのは、「特許無効審判の請求がされていない請求項に係る第1項ただし書第一号又は第二号」と読み替えるものとする。
*訂正の要件、手続、効果及び訂正請求書の方式等について、必要な読替規定を置きつつ、訂正審判の関連規定を準用する。
- 第126条第4項:明細書又は図面の訂正が複数の請求項に係る発明と関係する場合、当該関係する請求項の全てについて請求をしなければならない。
- 第126条第5項:特許後の訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしなければならない(新規事項追加禁止)。ただし、誤記誤訳の訂正の場合は、当初明細書等(外国語書面出願の場合は外国語書面)の範囲内においてしなければならない。
- 第126条第6項:特許後の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない。
- 第126条第7項:(読替後)特許無効審判の請求がされていない請求項に係るものであって、特許請求の範囲の減縮または誤記誤訳の訂正を目的とする訂正は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない(独立特許要件)。
- 第126条第8項:訂正審判は、特許権の消滅後においても、請求することができる。ただし、特許が取消決定により取り消され、又は特許無効審判により無効にされた後は、この限りでない。(*同種の規定である第120条の5第9項では第126条第8項の準用なし)
- 第127条:訂正を請求する場合には、利害関係者の承諾を得なければならない。
- 第128条:訂正が認められた場合、その訂正後における明細書等により特許出願、出願公開、特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の設定の登録がされたものとみなす。
- 第131条第1項、第3項及び第4項:審判請求の方式
- 第131条の2第1項:審判請求書の補正
- 第132条第3項及び第4項:共同審判(共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければならない。審判請求人の一人について、審判手続の中断又は中止の原因があるときは、その中断又は中止は、全員についてその効力を生ずる。)
- 第133条第1項、第3項及び第4項:審判請求書が方式に違反しているときは、補正を命じ、補正命令に従わないとき(又は不適法な補正をした場合)は、審判長はその手続を決定をもって却下することができる。
(取消しの判決があつた場合における訂正の請求)
第134条の3
審判長は、
特許無効審判の審決(審判の請求に理由がないとするものに限る。)に対する第181条(審決の取消し)第1項の規定による取消しの判決が確定し、
同条第2項の規定により審理を開始するときは、
その判決の確定の日から一週間以内に被請求人から申立てがあつた場合に限り、
被請求人に対し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求するための相当の期間を指定することができる。
- 特許有効審決が取り消されて差戻しの判決があつた場合における訂正の請求
- 審判請求からの流れ
(審判請求人)無効審判の請求
→(特許庁)請求棄却審決(つまり特許有効審決)
→(審判請求人)審決取消訴訟の提起
→(裁判所)審決取消判決の確定(特許無効判決は不可)
→(特許庁)審理再開
※判決確定日から1週間以内に被請求人(特許権者)は訂正機会付与の申立てが可能 - (審決又は決定の取消し)
第181条 裁判所は、第178条第1項(審決等に対する訴え)の訴えの提起があつた場合において、当該請求を理由があると認めるときは、当該審決又は決定を取り消さなければならない。
2 審判官は、前項の規定による審決又は決定の取消しの判決が確定したときは、更に審理を行い、審決又は決定をしなければならない。…
(特許無効審判における特則)
第164条の2
審判長は、
特許無効審判の事件が審決をするのに熟した場合において、
審判の請求に理由があると認めるときその他の経済産業省令で定めるときは、
審決の予告を当事者及び参加人にしなければならない。
- 特許法施行規則 (審決の予告)第50条の6の2
特許法第164条の2第1項の経済産業省令で定めるときは、被請求人が審決の予告を希望しない旨を申し出なかつたときであつて、かつ、次に掲げるときとする。
一 審判の請求があつて審理を開始してから最初に事件が審決をするのに熟した場合にあつては、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき又は特許法第134条の2第1項の訂正の請求(審判の請求がされている請求項に係るものに限る。)を認めないとき。
二 特許法第181条第2項(審決取消判決後の審理)の規定により審理を開始してから最初に事件が審決をするのに熟した場合にあつては、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき又は特許法第134条の2第1項の訂正の請求(審判の請求がされている請求項に係るものに限る。)を認めないとき。
三 前二号に掲げるいずれかのときに審決の予告をした後であつて事件が審決をするのに熟した場合にあつては、当該審決の予告をしたときまでに当事者若しくは参加人が申し立てた理由又は特許法第153条第2項(職権審理結果の通知(無効理由通知))の規定により審理の結果が通知された理由(当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていないものに限る。)によつて、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき。
2 審判長は、
前項の審決の予告をするときは、
被請求人に対し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求するための相当の期間を指定しなければならない。
3 第157条第2項(審決書)の規定は、第1項の審決の予告に準用する。
- 第157条第2項
審決は、次に掲げる事項を記載した文書をもつて行わなければならない。
一 審判の番号
二 「当事者及び参加人並びに代理人」の「氏名又は名称」及び「住所又は居所」
三 審判事件の表示
四 審決の結論及び理由
五 審決の年月日
関連情報
(作成2020.05.14、最終更新2022.03.22)
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