はじめに
- 特許法第33条~第35条について、条文を解読してみます。
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目次
- 第33条(特許を受ける権利)
>仮専用実施権、仮通常実施権、専用実施権、通常実施権について - 第34条
- 第34条の2(仮専用実施権)
- 第34条の3(仮通常実施権)
- 第34条の4(登録の効果)
- 第34条の5(仮通常実施権の対抗力)
- 第35条(職務発明)
(特許を受ける権利)
第33条
特許を受ける権利は、「移転」することができる。
- 特許を受ける権利は、発明の完成により生ずる。
- 相続等の一般承継も、譲渡等の特定承継も、いずれでも移転できる。
2 特許を受ける権利は、「質権の目的」とすることができない。
- 質権の目的とすることはできない。
- 抵当権の目的とすることもできない。
- 譲渡担保の目的とすることはできる。
3 特許を受ける権利が共有に係るときは、
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、
その「持分を譲渡」することができない。
- 他の共有者の同意があれば、持分を譲渡できる。
- 他の共有者の同意がなければ、譲渡はできないが、相続その他の一般承継なら、持分を移転できる。
- 共同出願と特許権共有
4 特許を受ける権利が共有に係るときは、
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、
その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、
「仮専用実施権を設定」し、又は他人に「仮通常実施権を許諾」することができない。
仮専用実施権、仮通常実施権、専用実施権、通常実施権について
- 仮専用実施権とは、特許出願段階における独占的なライセンスであり、特許権の設定登録があったときは、設定行為で定めた範囲内において、専用実施権が設定されたものとみなされる実施権である。
具体的には、特許を受ける権利を有する者が、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、その特許出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内において設定することができる実施権である(第34条の2第1項)。仮専用実施権に係る特許出願について特許権の設定の登録があったときは、その特許権について、当該仮専用実施権の設定行為で定めた範囲内において、専用実施権が設定されたものとみなされる(同条第2項)。 - 仮通常実施権とは、特許出願段階における非独占的なライセンスであり、特許権の設定登録があったときは、設定行為で定めた範囲内において、通常実施権が許諾されたものとみなされる実施権である。
具体的には、特許を受ける権利を有する者が、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、その特許出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内において、他人に許諾することができる実施権である(第34条の3第1項)。仮通常実施権に係る特許出願について特許権の設定の登録があったときは、その特許権について、当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、通常実施権が許諾されたものとみなされる(同条第2項)。 - 専用実施権とは、特許後の独占的なライセンスであり、設定行為で定めた範囲内において、業として特許発明の実施をすることを専有する権利をいう(第77条第2項)。専用実施権者は、権利侵害に対し差止請求権や損害賠償請求権を行使することができる。
- 通常実施権とは、特許後の非独占的なライセンスであり、特許法の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業として特許発明の実施をする権利をいう(第78条第2項)。通常実施権者は、実施が許容されるに過ぎず、権利侵害に対し差止請求権や損害賠償請求権を行使することはできない。
- 仮専用実施権および仮通常実施権は、特許前(出願段階)のライセンスであり、専用実施権および通常実施権は、特許後のライセンスである。
第34条
特許出願前における特許を受ける権利の承継は、
その承継人が特許出願をしなければ、
第三者に対抗することができない。
- 特許出願前における特許を受ける権利の承継は、出願が第三者対抗要件である。
2 同一の者から承継した同一の特許を受ける権利について
同日に二以上の特許出願があつたときは、
特許出願人の協議により定めた者以外の者の承継は、
第三者に対抗することができない。
3 同一の者から承継した同一の「発明及び考案」についての「特許を受ける権利及び実用新案登録を受ける権利」について
同日に特許出願及び実用新案登録出願があつたときも、
前項と同様とする。
4 特許出願後における特許を受ける権利の承継は、
相続その他の一般承継の場合を除き、
特許庁長官に届け出なければ、その効力を生じない。
- 特許出願後における特許を受ける権利の承継は、届出が効力発生要件である。
- 但し、相続その他の一般承継については、届出がなくても、承継の効力が生じる。
5 特許を受ける権利の相続その他の一般承継があつたときは、
承継人は、遅滞なく、その旨を特許庁長官に届け出なければならない。
6 同一の者から承継した同一の特許を受ける権利の承継について
同日に二以上の届出があつたときは、
届出をした者の協議により定めた者以外の者の届出は、
その効力を生じない。
7 第39条第6項及び第7項の規定は、第2項、第3項及び前項の場合に準用する。
- (先願)
第39条
1~5 省略
6 特許庁長官は、第2項又は第4項の場合は、相当の期間を指定して、第2項又は第4項の協議をしてその結果を届け出るべき旨を出願人に命じなければならない。
7 特許庁長官は、前項の規定により指定した期間内に同項の規定による届出がないときは、第2項又は第4項の協議が成立しなかつたものとみなすことができる。
(仮専用実施権)
第34条の2
特許を受ける権利を有する者は、
その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、
その特許出願の願書に最初に添付した「明細書、特許請求の範囲又は図面」に記載した事項の範囲内において、
仮専用実施権を設定することができる。
- 特許を受ける権利を有する者(将来の特許権者)は、
将来取得する特許権について、
当初明細書等に記載した事項の範囲(出願後の補正を考慮した権利取得可能な最大範囲)内において、
仮専用実施権を設定することができる。
2 仮専用実施権に係る特許出願について特許権の設定の登録があつたときは、
その特許権について、当該仮専用実施権の設定行為で定めた範囲内において、
専用実施権が設定されたものとみなす。
3 仮専用実施権は、
・その特許出願に係る発明の実施の事業とともにする場合、
・特許を受ける権利を有する者の承諾を得た場合
・及び相続その他の一般承継の場合
に限り、移転することができる。
4 仮専用実施権者は、
特許を受ける権利を有する者の承諾を得た場合に限り、
その仮専用実施権に基づいて取得すべき専用実施権について、
他人に仮通常実施権を許諾することができる。
5 仮専用実施権に係る特許出願について、第44条第1項の規定による特許出願の分割があつたときは、
当該特許出願の分割に係る新たな特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、
当該仮専用実施権の設定行為で定めた範囲内において、
仮専用実施権が設定されたものとみなす。
ただし、当該設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
6 仮専用実施権は、
・その特許出願について特許権の設定の登録があつたとき、
・その特許出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき
・又はその特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したとき
は、消滅する。
- その他、仮専用実施権の実施契約の満了や解除、仮専用実施権の放棄などによっても、当然に消滅する。
7 仮専用実施権者は、
第4項又は次条第7項本文の規定による仮通常実施権者があるときは、
これらの者の承諾を得た場合に限り、その仮専用実施権を放棄することができる。
8 第33条第2項から第4項までの規定は、仮専用実施権に準用する。
- (特許を受ける権利)
第33条 特許を受ける権利は、移転することができる。
2 特許を受ける権利は、質権の目的とすることができない。
3 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができない。
4 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、仮専用実施権を設定し、又は他人に仮通常実施権を許諾することができない。
(仮通常実施権)
第34条の3
特許を受ける権利を有する者は、
その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、
その特許出願の願書に最初に添付した「明細書、特許請求の範囲又は図面」に記載した事項の範囲内において、
他人に仮通常実施権を許諾することができる。
- 特許を受ける権利を有する者(将来の特許権者)は、
将来取得する特許権について、
当初明細書等に記載した事項の範囲(出願後の補正を考慮した権利取得可能な最大範囲)内において、
仮通常実施権を許諾することができる。
2 前項の規定による仮通常実施権に係る特許出願について特許権の設定の登録があつたときは、
当該仮通常実施権を有する者に対し、
その特許権について、当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、
通常実施権が許諾されたものとみなす。
3 前条第2項(仮専用実施権に係る出願の設定登録による専用実施権の設定)の規定により、同条第4項(仮専用実施権者による仮通常実施権の許諾)の規定による仮通常実施権に係る仮専用実施権について専用実施権が設定されたものとみなされたときは、
当該仮通常実施権を有する者に対し、
その専用実施権について、当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、
通常実施権が許諾されたものとみなす。
4 仮通常実施権は、
・その特許出願に係る発明の実施の事業とともにする場合、
・特許を受ける権利を有する者(仮専用実施権に基づいて取得すべき専用実施権についての仮通常実施権にあつては、特許を受ける権利を有する者及び仮専用実施権者)の承諾を得た場合
・及び相続その他の一般承継の場合
に限り、移転することができる。
5 第1項(特許を受ける権利を有する者による仮通常実施権の許諾)若しくは前条第4項(仮専用実施権者による仮通常実施権の許諾)又は実用新案法第4条の2第1項(実用新案登録を受ける権利を有する者による仮通常実施権の許諾)の規定による仮通常実施権に係る第41条第1項(国内優先権)の先の出願の願書に最初に添付した「明細書」、「特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲」又は「図面」(当該先の出願が第36条の2第2項の外国語書面出願である場合にあつては、同条第1項の「外国語書面」)に記載された発明に基づいて第41条第1項(国内優先権)の規定による優先権の主張があつたときは、
当該仮通常実施権を有する者に対し、
当該優先権の主張を伴う特許出願(後の出願)に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、
当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、
仮通常実施権が許諾されたものとみなす。
ただし、当該設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
- 仮通常実施権が許諾されている「先の出願」に基づき国内優先権を主張して「後の出願」がなされた場合、「後の出願」について、「先の出願」についての仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、仮通常実施権が許諾されたものとみなす。
6 仮通常実施権に係る特許出願について、第44条第1項の規定による特許出願の分割があつたときは、
当該仮通常実施権を有する者に対し、
当該特許出願の分割に係る新たな特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、
当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、
仮通常実施権が許諾されたものとみなす。
ただし、当該設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
7 前条第5項本文(分割出願への仮専用実施権の設定擬制)の規定により、同項に規定する新たな特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権についての仮専用実施権(以下この項において「新たな特許出願に係る仮専用実施権」という。)が設定されたものとみなされたときは、
当該新たな特許出願に係るもとの特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権についての仮専用実施権に基づいて取得すべき専用実施権についての仮通常実施権を有する者に対し、
当該新たな特許出願に係る仮専用実施権に基づいて取得すべき専用実施権について、
当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、
仮通常実施権が許諾されたものとみなす。
ただし、当該設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
- 分割出願に仮専用実施権が設定されたものとみなされたときは、親出願についての仮専用実施権に基づく仮通常実施権を有する者に対し、設定行為で定めた範囲内において、原則として、仮通常実施権が許諾されたものとみなされる。
8 実用新案法第4条の2第1項の規定による仮通常実施権に係る実用新案登録出願について、第46条第1項の規定による出願の変更があつたときは、
当該仮通常実施権を有する者に対し、
当該出願の変更に係る特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、
当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、
仮通常実施権が許諾されたものとみなす。
ただし、当該設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
9 意匠法(昭和34年法律第125号)第5条の2第1項の規定による仮通常実施権に係る意匠登録出願について、第46条第2項の規定による出願の変更があつたときは、
当該仮通常実施権を有する者に対し、
当該出願の変更に係る特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、
当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、
仮通常実施権が許諾されたものとみなす。
ただし、当該設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
10 仮通常実施権は、
・その特許出願について特許権の設定の登録があつたとき、
・その特許出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき
・又はその特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したとき
は、消滅する。
11 前項に定める場合のほか、
「前条第4項の規定」(仮専用実施権者による仮通常実施権の許諾)又は「(本条)第7項本文の規定」(分割出願への仮通常実施権の許諾擬制)による仮通常実施権は、
その仮専用実施権が消滅したときは、消滅する。
12 第33条第2項及び第3項の規定は、仮通常実施権に準用する。
- (特許を受ける権利)
第33条 特許を受ける権利は、移転することができる。
2 特許を受ける権利は、質権の目的とすることができない。
3 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができない。
4 省略
(登録の効果)
第34条の4
仮専用実施権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、変更、消滅(混同又は第34条の2第6項(仮専用実施権の消滅)の規定によるものを除く。)又は処分の制限は、登録しなければ、その効力を生じない。
- 混同=特許を受ける権利を有する者と仮専用実施権者とが同一人格となった場合
2 前項の相続その他の一般承継の場合は、遅滞なく、その旨を特許庁長官に届け出なければならない。
(仮通常実施権の対抗力)
第34条の5
仮通常実施権は、
その許諾後に『当該仮通常実施権に係る特許を受ける権利若しくは仮専用実施権』又は『当該仮通常実施権に係る特許を受ける権利に関する仮専用実施権』を取得した者に対しても、その効力を有する。
(職務発明)
第35条
- 本条の条文解読は、次のページをご覧ください。
職務発明(条文解読)
(作成2021.06.06、最終更新2021.06.06)
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