意匠の類否判断事例2(拒絶査定不服審判:脇机)

意匠の類否判断手法(基本的構成態様と具体的態様の認定による形態の類似/非類似)を事例で確認していきます。

前回は、意匠の類否判断事例1(意匠登録無効審判:パンダぬいぐるみ)でした。意匠が類似するためには、原則として、基本的構成態様が共通することが必要であることを確認しました。

今回は、基本的構成態様が共通であっても特徴的な態様とは言えない場合です。具体的態様における差異点の影響が考慮されます。

 


特許庁(拒絶査定不服審判):不服2013-22118

本願意匠は、引用意匠に類似しない。

 

本願意匠

引用意匠

脇机

日用品キャビネット

本願意匠:脇机

引用意匠:日用品キャビネット

基本的構成態様
【共通点】

正面視縦長矩形状で奥行きの長い略直方体の、正面に上段・中段・下段と三段の引き出しを設けたキャスター付きの収納棚であり、各引き出しには取っ手が設けられ、下段の引き出し底部の略前面中央の位置に、引き出しに直接取り付けられたキャスターを備えたものである。

具体的構成態様
【相違点】

(a)取っ手の位置について

正面視において、上段引き出しにおいては、略中央部に、中段引き出し及び下段引き出しにおいては、略上方中央部に取っ手を設けている。

上・中・下段とも、略上方中央部に取っ手を設けている。

(b)取っ手の形状について

略直方体からなる取っ手の手前側の面を、側面視略倒U字状になるように上下辺を上下対称状に形成し、

取っ手の引き出し取付け側の略中央部に、横方向の幅が全体の略1/3、奥行き方向の幅が全体の略1/2からなる、平面視略隅丸凹字状の凹状部を有した指掛け部を設けている。

略細長角状体を、平面視略倒コ字状に指掛け部を形成し、取っ手としている。

(c)引き出し前面の態様について

取っ手を取り付けた位置に、取っ手取付け側の略中央部に、正面視略円形の凹みを形成している

凹みを設けていない

(d)引き出しの大きさについて

正面視において、上段・中段・下段の引き出しの高さの割合が、およそ1:2:4となっている。

およそ1:1:2となっている。

(e)キャスターの態様について

下部に設けられた個々のキャスターが、2つの車輪から構成されている。

個々のキャスターは、1つの車輪から構成されている。

 

(1)意匠に係る物品について

 「脇机」と「日用品キャビネット」と表記は異なるが、いずれも引き出し形式で構成された収納部を有するキャビネットであることから、両意匠の意匠に係る物品は、共通する

 

(2)両意匠の形態について

まず、共通点については、3段の引き出しを有すること、及びその下段の引き出しには格納物の重さを考慮して、脇机を構成するキャスターとは別に、下段引き出し用のキャスターを前面の略中央の位置に設けることは、この分野においては従来から存在するものであり、両意匠にのみ共通する特徴的な態様とは言えず、両意匠の類否判断に与える影響は軽微なものであるから、両意匠の類否判断を決定づけるまでには至らないものである。

これに対して、相違点(a)の取っ手の位置、相違点(b)の取っ手の形状、及び相違点(c)の引き出し前面の態様については、引き出しの開閉時において、使用者が操作する際に直接触れる部分でもあるため、この種物品において、このような相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいものである。

更に、相違点(d)の引き出しの大きさ、及び相違点(e)のキャスターの態様についても、細部とはいえ、異なる印象を与えるものであるから、この相違点についても両意匠の類否判断に一定程度の影響を与えていると言える。

そして、これらの各相違点に係る態様が相まって生じる視覚的効果は、意匠全体として見た場合、上記共通点を凌ぎ、需要者に別異の美感を起こさせるものであるから、本願意匠は、引用意匠に類似しないものと言える。

 

基本的構成態様が共通であっても、ありふれたものであり、具体的態様における差異点の影響が大きい場合、非類似となる。
詳しくは、意匠の類否判断手法(基本的構成態様と具体的態様の認定による形態の類似/非類似)をご覧ください。

 


関連情報

 


(作成2022.10.05、最終更新2022.10.05)
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