意匠審決の読解3(類否判断事例)

不服2022-9326

意願2021-2264「カップホルダー」拒絶査定不服審判事件

原査定を取り消す。本願の意匠は、登録すべきものとする。

意匠法3条1項3号(新規性)

【弊所メモ】引用意匠が部分意匠、表面の輪郭と模様、共通点が本願出願前から公知、使用時に見えやすい部分、使用時に最も目につく部分

◆図面・写真・画像は、審判番号から、特許庁の審決公報をご覧ください。

 


1 本願意匠及び引用意匠の対比

 引用意匠は破線で表現された部分も併せて本願意匠に対応する形状等を認定する。

(1)意匠に係る物品

 両意匠は、いずれも、飲料用のカップを保持・運搬する目的で用いられるホルダーであり、意匠に係る物品は、一致する

(2)両意匠の形状等

 ア 共通点

 (ア)基本的構成態様

 全体は、略縦長矩形状を基調とした平板で、正面視において、左辺縁部は3つの緩やかな波形の凸部(左辺凸部)、右辺縁部は中央よりやや上部に緩やかな1つの半円形の凸部(右辺凸部)を形成し、同径の4つの円孔(孔部)を配したものである点。

 (イ)孔部の構成配置及び比率

 孔部は、左辺凸部に近接するように3つの円孔を縦並びに配し、右辺凸部に近接するように1つの円孔を配し、正面視における横幅に対する孔部の径の比率を約4:1としている点。

 イ 相違点

 (ア)正面視頂部の形状等

 本願意匠の頂部がドーム状をなしているのに対し、引用意匠の頂部は略平坦状をなしている点。

 (イ)表面に施された模様の有無

 本願意匠は、表裏面にカップを手で握る模様が付されており、具体的には、孔部の周縁に指先模様が描かれ、正面視左下部には小指の指先模様が描かれ、各指先の模様には皺に相当する細線が表現され、カップはドーム状の蓋部分を有する略逆円錐台形状に表現されているのに対し、引用意匠には表面及び裏面ともに模様が一切付されていない点。

 

2 類否判断

(1)意匠に係る物品

 両意匠の意匠に係る物品は、ともに、飲料用のカップを保持・運搬するための「カップホルダー」であり、同一である

(2)両意匠の形状等の共通点及び相違点の評価

 ア 共通点の評価

 共通点(ア)について、両意匠に共通する基本的構成態様については、板状に4つの円孔を設けたカップホルダーは例を挙げるまでもなく本願出願前から公知であり、全体の輪郭形状を概括的に捉えた場合における共通性に止まり、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

 共通点(イ)について、孔部の構成配置に係る場合の共通性に止まり、板状に本願と同様の構成配置及び比率で4つの円孔を設けたカップホルダーも例を挙げるまでもなく本願出願前から公知であることからも、この共通点が、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

 イ 相違点の評価

 相違点(ア)について、表面の輪郭形状は通常の使用の状態において見えやすい部分に係る相違であり、本願意匠の頂部がドーム状であるのに対し、引用意匠の頂部は略平坦状をなしている点で相互に明確な相違があると評価せざるを得ず、この相違は両意匠の類否判断に一定程度の影響を与えるものといえる。

 相違点(イ)について、表面の態様はカップを保持して使用する際に最も目につく部分であり、本願意匠は表裏面に人の手を模した指先やカップを表現した具象的な模様が広い領域にわたり施されているのに対し、引用意匠は模様が一切付されていない点は、一見して視覚的印象が大きく異なるため、大きな相違と評価せざるを得ず、この相違が両意匠の類否判断に与える影響は非常に大きい。

(3)意匠の形状等の類否判断

 両意匠の形状等における共通点及び相違点の評価に基づき、意匠全体として総合的に観察し判断した場合、共通点(ア)ないし(イ)が両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対して、相違点(イ)が両意匠の類否判断に与える影響は大きく、相違点(ア)も両意匠の類否判断に一定程度の影響を与えるものといえる。

 したがって、両意匠の形状等を総合的に観察した場合、共通点に比べて、相違点がもたらす影響の方が大きいものであるから、両意匠の形状等は類似しない。

 

3 小括

 以上のとおり、両意匠は、意匠に係る物品は同一であるが、両意匠の形状等においては、共通点が未だ両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものであるのに対して、相違点が類否判断に与える影響は共通点のそれを凌駕しており、意匠全体として観察した場合、両意匠は、需要者に異なる美感を与えているというべきであるから、本願意匠は、引用意匠に類似するということはできない。

 


関連情報

 


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正確な全文は、審判番号から審決公報をご確認ください。
(作成2023.08.24、最終更新2023.08.24)

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