意匠審決の読解9(創作非容易性の判断事例)

不服2020-2157

意願2019-7559「手袋」拒絶査定不服審判事件

原査定を取り消す。本願の意匠は、登録すべきものとする。

意匠法第3条第2項(創作性)

【弊所メモ】部分意匠、物理的に離れた複数の部分、機能的一体性、一意匠、図面間の矛盾、物品の部分に係る創作非容易性の判断、部分の形態、部分の用途及び機能、物品全体の形態の中における位置・大きさ・範囲、よく見受けられるもの、形態の組合せ・配置、ありふれた手法

◆図面・写真・画像は、審判番号から、特許庁の審決公報をご覧ください。

 


1 本願意匠

 本願意匠の意匠に係る物品は「手袋」であって、右手側の5本指の短手袋のうち、意匠登録を受けようとする部分を、親指を除く4本の指の指先から指の股の手前までの指袋部を区画した部分としたものであって、本願は、物理的に離れた複数の部分から成るが、手袋の指袋部という機能的一体性をもって形成されたものであるから、1意匠として認められる。

 形態については、

 (ア)人差し指袋部を正面視、上側の甲側材と下側の掌側材の2枚はぎに、中指袋部及び薬指袋部をさらに両側マチ材を含む4枚はぎに、小指袋部を片側マチ材を含む3枚はぎのものとし、手袋の指袋部として、一体のものとして形成したものであって、

 (イ)人差し指の指袋部は、平面視、略縦長U字状の甲側材と側面及び掌側を連なって被覆する略ドーム状の掌側材の2枚から成る略縦長キャップ状に形成し、

 (ウ)中指及び薬指の指袋部は正面視(指先側)を甲側と掌側が広い略扁平X字状に分割する略尖塔状の甲側材及び掌側材と左右の略槍の穂先状の細長いマチ材から成る4枚はぎのマチ付きの略縦長キャップ状に形成し、

 (エ)小指の指袋部は、正面視(指先側)倒Yの字状に分割する略尖塔状の甲側材及び掌側材と薬指袋側の略槍の穂先状の細長いマチ材から成る3枚はぎのマチ付きの略縦長キャップ状に形成しているものである。

 

2 引用意匠(公知意匠)

 意匠に係る物品は「ゴルフ用手袋」であり、原審拒絶理由において、人差し指の指袋のみマチを付けない構成とした例示としてあげられたものであって、…

 人差し指袋部は、指先側は、蛇行する傾斜線によって2分されているので2枚はぎであるように見えるものの、甲側では…が表され、掌側でも…が表れているため、正面視で観察可能と推認できる縦方向接合部が3カ所となり、正面視の形態と矛盾するから2枚はぎであるかは不明であって、略縦長キャップ状に形成したものである。

 中指袋部及び薬指袋部は…

 小指の指袋部は、…

 

3 本願部分の創作非容易性について

 物品の部分に係る創作非容易性の判断については、

 当該部分の形態が、当該意匠登録出願前に公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて当業者であれば容易に創作することができたものであるか否かを判断すると共に、

 当該部分の用途及び機能を考慮し、「意匠登録を受けようとする部分」を当該物品全体の形態の中において、その位置、大きさ及び範囲とすることが、当業者にとってありふれた手法であるか否かを判断することにより行うべきである。

 

 本願部分の用途及び機能は、「手袋」として、主に指部の防寒、防汚、保護などのために、指部を被覆する機能に係るものと認められ、手袋の物品分野において、ごく普通の用途及び機能であるから、格別の機能及び用途に係るものであるということはできない。

 

 位置、大きさ及び範囲について検討すると、本願部分は、サイズによる大小はあれ、人の手の指程度の大きさであると認められ、手袋の物品分野において、よく見受けられる程度の大きさであり、その全体の中の位置についても親指を除く4本の指の指袋部分であるからごく普通に見受けられる程度のものであって、範囲については、各指袋部の指先から指の股手前までの範囲であって、略各指の指袋部といえ、範囲として格別のものとまではいうことはできない

 

 本願部分の形態については、

 (イ)の形態については、引例意匠では(不明であるから)表されているといえないが、指袋部が本願部分と同様に甲側材と側面及び掌側を連なって被覆する掌側材から成るような形態は、手袋の物品分野においてはよく見受けられるものであって、

 (ウ)及び(エ)の形態については、マチ材を別材で設けた形態も、手袋の物品分野においてはよく見受けられるものであるから、

 上記1の(イ)ないし(エ)のこれらの指袋部の個々の形態については、格別の創意を施したということはできない。

 

 しかしながら、各部分の形態のみならず、どのような形態を組み合わせ、どのような配置で表すかという点にも創作の余地が存在するというべきところ、

 上記1の(ア)については、本願出願前に公然知られた形態である引例意匠、参考意匠1及び2のいずれにも表されておらず、人差し指袋部を甲側材と掌側材の2枚はぎに、中指袋部及び薬指袋部を両側マチ材を含む4枚はぎに、小指袋部を片側マチ材を含む3枚はぎのものとし、いわば、異なる裁断手法から成る指袋部を、1つの手袋の指袋部として一体のものとして形成することが「手袋」の物品分野において本願意匠出願前にありふれた手法であったとする証拠もないから、周知の創作手法であったとすることはできず、本願部分の独自の特徴を形成しているといえる。

 

4 小括

 本願部分の用途機能とすること、また、「意匠登録を受けようとする部分」を当該物品全体の形態の中において、その位置大きさとすることが、ごく普通に見受けられる程度のものであり、範囲についても格別の創作ということはできないものであり、いずれも当業者が公然知られた意匠に基づいて容易に想到することができたものであったとしても、形態について、上記1の(ア)の形態とすることが、「手袋」の物品分野において本願意匠出願前にありふれた手法であったとする証拠はなく、「当該物品分野において周知の創作手法」によって創作することができたということはできない。

 


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正確な全文は、審判番号から審決公報をご確認ください。
(作成2023.09.04、最終更新2023.09.04)

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