特許法第101条の条文解読(特許権の間接侵害)

はじめに

  • 特許法第101条について、条文を解読してみます。特許権の間接侵害についての規定です。
  • 直接侵害と間接侵害との比較も、条文に基づき確認してみます。
  • 条文等は、本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。
  • 参考文献:特許庁『工業所有権法逐条解説 第21版,第14版』
  • 本ページの解説動画特許法第101条の条文解読(特許権の間接侵害)【動画】

 


目次

 


直接侵害と間接侵害

権利者(特許権者又は専用実施権者)は、業として特許発明の実施をする権利を専有します(第68条)。つまり、権利者は、特許発明を独占排他的に実施することができます。独占できる特許発明の技術的範囲は、願書に添付した【特許請求の範囲】の記載に基づいて定められます(第70条)。

従って、特許権の侵害とは、原則として、【特許請求の範囲】の【請求項】に記載の構成要件(発明特定事項)のすべての実施が要件となります(直接侵害)。たとえば、自転車の発明であって、フレーム、ハンドル、サドル、車輪、ペダルが要件となっている場合、そのすべてを備えた自転車を製造した場合が特許権侵害を構成し、その一部(たとえばハンドル)のみを製造しても、特許権侵害とはならないのが原則です。

しかしながら、たとえば侵害品の製造にのみ用いる物(専用部品)を製造等する行為は、直接侵害につながる可能性が高いので、そのまま放置しては特許権による保護を有効に図ることができません。

そこで、一定の行為については、直接侵害でなくても特許権の侵害とみなして、権利者の保護を図ることとしました(第101条)。これにより侵害とみなされる行為を「間接侵害」といいます。

なお、実施とは、(a) 物の発明にあっては、その物の生産・使用・譲渡等・輸出・輸入・譲渡等の申出をする行為をいい、(b) 方法の発明にあっては、その方法の使用をする行為をいい、(c) 物を生産する方法の発明にあっては、その方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用・譲渡等・輸出・輸入・譲渡等の申出をする行為をいいます(第2条第3項)。

直接侵害と間接侵害との比較については、後述の「特許権の直接侵害と間接侵害(1):物の発明」、「特許権の直接侵害と間接侵害(2):方法の発明」、「特許権の直接侵害と間接侵害(3):物を生産する方法の発明」をご覧ください。

 


(侵害とみなす行為)
第101条

次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。

 

第一号~第三号は【物の発明】

一 特許が物の発明についてされている場合において、
業として、その物の生産に【のみ】用いる物の「生産」、「譲渡等」若しくは「輸入」又は「譲渡等の申出」をする行為

  • 「テレビ受像機の完成品に特許がされている場合に、そのテレビ受像機の組立に必要な一切の物をセットとして販売するような行為」(特許庁編『工業所有権法逐条解説 第21版』)
  • 直接侵害との違い?:物の発明について「実施」とは、その物の「生産」、「使用」、「譲渡等」、「輸出」若しくは「輸入」又は「譲渡等の申出」をする行為をいう(第2条第3項第一号)。
  • 「物」には、プログラム等を含む(第2条第4項)。
  • 「譲渡等」とは、「譲渡」及び「貸渡し」をいい、その物がプログラム等である場合には、「電気通信回線を通じた提供」を含む(第2条第3項第一号)。
  • 「譲渡等の申出」には、「譲渡等のための展示」を含む(第2条第3項第一号)。

 

二 特許が物の発明についてされている場合において、
その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、
「その発明が特許発明であること」及び「その物がその発明の実施に用いられること」を知りながら、
業として、その「生産」、「譲渡等」若しくは「輸入」又は「譲渡等の申出」をする行為

 

三 特許が物の発明についてされている場合において、
その物業としての譲渡等又は輸出のために所持」する行為

 

第四号~第五号は【方法の発明】

四 特許が方法の発明についてされている場合において、
業として、その方法の使用に【のみ】用いる物の「生産」、「譲渡等」若しくは「輸入」又は「譲渡等の申出」をする行為

  • 「DDTを殺虫剤として使用する方法に特許がされている場合であって、DDTが殺虫方法にのみ使用されるときにそのDDTを製造、販売するような行為」(特許庁編『工業所有権法逐条解説 第14版』)
  • 直接侵害との違い?:方法の発明について「実施」とは、その方法の「使用」をする行為をいう(第2条第3項第ニ号)。

 

五 特許が方法の発明についてされている場合において、
その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、
「その発明が特許発明であること」及び「その物がその発明の実施に用いられること」を知りながら、
業として、その「生産」、「譲渡等」若しくは「輸入」又は「譲渡等の申出」をする行為

 

第六号は【物を生産する方法の発明】

六 特許が物を生産する方法の発明についてされている場合において、
その方法により生産した物
業としての譲渡等又は輸出のために所持」する行為

  • 直接侵害との違い?:物を生産する方法の発明について「実施」とは、その方法の「使用」をする行為のほか、その方法により生産した物の「使用」、「譲渡等」、「輸出」若しくは「輸入」又は「譲渡等の申出」をする行為をいう(第2条第3項第三号)。

 


特許権の直接侵害と間接侵害(1):物の発明

特許権の直接侵害と間接侵害(1):物の発明:特許法2条3項一号、101条一号・二号・三号

 

特許権の直接侵害と間接侵害(2):方法の発明

特許権の直接侵害と間接侵害(2):方法の発明:特許法2条3項二号、101条四号・五号

 

特許権の直接侵害と間接侵害(3):物を生産する方法の発明

特許権の直接侵害と間接侵害(3):物を生産する方法の発明:特許法2条3項三号、101条六号

 


関連情報

 


(作成2022.03.23、最終更新2022.05.04)
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