商標の不使用取消審判(商標法第50条の条文解読)

商標登録は商標の不使用により取り消されることがある!?

  • 登録商標は、3年間不使用の場合、取り消されることがあります。どのような場合に取り消されるのか、登録商標の使用とはどのようなものか、取消しを免れる要件は何かなど、不使用取消審判について解説します。
  • 不使用取消審判について規定する商標法第50条、第54条第2項について、条文を解読してみます。
  • 条文等は、本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。
  • 本ページの解説動画商標の不使用取消審判(商標法第50条の条文解読)【動画】
  • 参考文献:特許庁『審判便覧 第19版』、『不使用取消審判請求に対する登録商標の使用の立証のための参考資料』
    なお、下記具体例は審判便覧からですが、弊所において編集・加工を行っています。

 


不使用取消審判とは?

不使用取消審判とは、継続して3年以上日本国内において権利者が登録商標の使用をしていないことを理由として、商標登録の取消しを誰でも請求することができる審判をいう。

 


不使用取消審判を設けた理由?

商標法が商標を保護する理由は、商標の使用により蓄積される業務上の信用を保護するためである。そのため、商標登録を受けるには、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることが要件となっている(第3条第1項)。

将来における使用の意思があれば登録されるが、商標が一定期間不使用の場合、保護すべき信用がないことになる。

そして、保護すべきでないものに権利を維持したのでは、第三者の利益を不当に害し、また商標選択の余地を狭める。

そこで、不使用商標の商標登録については、一定要件下、取り消すこととした。

 


(商標登録の取消しの審判)
第50条

継続して3年以上」「日本国内において」「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが」「各指定商品又は指定役務についての」「登録商標の」使用をしていないときは、
何人も、「その指定商品又は指定役務に係る商標登録」を取り消すことについて
審判を請求することができる。

 

不使用取消審判の請求要件

下記(1)~(5)を満たす場合、その不使用の商品又は役務の商標登録を取り消すことについて、何人も(つまり原則として誰でも)審判を請求することができる。

  • (1)継続して3年以上、使用していない。
  • (2)日本国内において、使用していない。
  • (3)商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが、使用していない。
  • (4)各指定商品又は指定役務について、使用していない。
  • (5)登録商標を、使用していない。
    ※(4)及び(5)の要件は、不使用取消審判において取消しを免れるには、権利者による使用が「専用権の範囲」での使用である必要を示している(商標法第25条の条文解読(商標権の効力))。但し、後述するように、「登録商標」には「社会通念上同一と認められる商標」も含まれる。

指定商品又は指定役務とは?

  • 商標登録出願は、「商標(ネーミングやマーク等)」だけでなく、その商標をどのような「商品又は役務」に使用するのかも指定して行うが、それにより指定された商品又は役務を、「指定商品」又は「指定役務」という。
  • 役務(えきむ)とは、サービスのことである。

登録商標とは?

  • 登録商標とは、商標登録を受けている商標をいう(第2条第5項)。
  • 不使用取消審判を規定する第50条における「登録商標」には、「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標」、「平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標」、「外観において同視される図形からなる商標」その他の【当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標】を含む(第38条第5項括弧書)。
  • 不使用取消審判を規定する第50条における「登録商標」には、「その登録商標に類似する商標であって、色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるもの」(【色違い類似商標】)を含む(第70条第1項)。

「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標」の例

  • 明朝体とゴシック体などの変更
  • 楷書体と行書体などの変更
  • ローマ字の大文字と小文字の変更
    「HI-KE」と「hi-ke」

「平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標」の例

  • 平仮名と片仮名の変更
    「ちゃんぴおん」と「チャンピオン」
  • 平仮名(片仮名)とローマ字の変更
    「ラブ(らぶ)」と「love」・・・[愛]
    「アップル(あっぷる)」と「apple」・・・[林檎]
    「ホタル(ほたる)」と「hotaru」・・・[螢]
  • 但し、次のものは、登録商標の使用と認められない。
    「チョコ」と「ちょこ」

     ※「チョコ」からは[チョコレート]の観念が生じるが、「ちょこ」からは[猪口]の観念が生じる。
    「ピース」と「peace」
     ※「ピース」からは「peace[平和]」以外に「piece[小片]」の観念も生じる。 

「外観において同視される図形からなる商標」の例

「その他社会通念上同一と認められる商標」の例

  • 称呼及び観念を同一とする場合で、平仮名(片仮名)と漢字の変更
    「はつゆめ(ハツユメ)」と「初夢」
  • 二段併記(二段書き)の商標の各段が観念を同一とする場合で、その一方の使用
    二段併記(二段書き)の商標」と「太陽」
    二段併記(二段書き)の商標」と「SUN」
  • 縦書きと横書きの変更(ローマ字の右横書きを除く)
  • 但し、次のものは、登録商標の使用と認められない。
    「ききょう(キキョウ)」と「桔梗」

     ※「ききょう(キキョウ)」からは「桔梗」以外に「帰郷」の観念も生じる。
    「虹」と「rainbow」
     ※漢字とローマ字の変更で、称呼が相違する。 
    「蛙」と

 


2 前項の審判の請求があつた場合においては、
「その審判の請求の登録前3年以内に」「日本国内において」「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが」「その請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての」「登録商標の」使用をしていることを
被請求人が証明しない限り、
商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない

ただし、「その指定商品又は指定役務について」「その登録商標の」使用をしていないことについて
正当な理由があることを
被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。

 

不使用取消しを免れるための要件

下記(1)~(5)について、【被請求人】(商標権者)が証明しない限り、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。

  • (1)審判の請求の登録前3年以内に、使用をしている。
  • (2)日本国内において、使用をしている。
  • (3)商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、使用をしている。
  • (4)請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについて、使用をしている。
  • (5)登録商標の、使用をしている。

但し、不使用について正当理由があることを、【被請求人】(商標権者)が明らかにしたときは、取消しを免れる。

 


3 「第1項の審判の請求前3月」から「その審判の請求の登録の日」までの間に、
「日本国内において」「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが」「その請求に係る指定商品又は指定役務についての」「登録商標の」使用をした場合であつて、
その登録商標の使用が「その審判の請求がされることを知つた後であること」を請求人が証明したときは、
その登録商標の使用は第1項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。

ただし、その登録商標の使用をしたことについて
正当な理由があることを
被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。

 

駆け込み使用の防止

  • 審判請求前3月から審判請求登録日までの間の使用であって、
    その使用が審判請求されることを知った後であることを、【請求人】が証明したときは、
    その使用は登録商標の使用に該当しない。
  • 不使用取消審判の請求があり得ることを譲渡交渉やライセンス交渉等の相手方の行動から察知してからの「駆け込み使用」を防止するためである。
  • 但し、その使用について正当理由があることを、【被請求人】(商標権者)が明らかにしたときは、登録商標の使用となる(駆け込み使用ではない)。

 


第54条

商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは、商標権は、その後消滅する。

2 前項の規定にかかわらず、
第50条第1項の審判(不使用取消審判)により商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは、
商標権は、同項の審判の請求の登録の日に消滅したものとみなす。

 

取消審決確定の効果

  • 各種取消審判において取消審決が確定したとき、商標権は審決確定後に消滅するのが原則である(第1項)。但し、不使用取消審判については、審判請求登録日まで遡及して取り消される。これにより、審判請求登録日から審決確定日までの期間について、不使用商標の商標権に基づき損害賠償請求等されるおそれがない。
  • 取消審決確定後、被請求人(もと商標権者)、請求人、これら以外の第三者は、取り消された商標と同一・類似の商標について、登録を受けられる場合がある。

 


関連情報

 


(作成2022.06.05、最終更新2022.06.09)
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