目次(商標の使用・具体例・商標権の効力が及ばない範囲)
- 本ページの解説動画:商標の使用とは・具体例【動画】
- はじめに
- 第2条第3項(使用の定義と具体例)
- >第一号:商品又はその包装に商標を付ける行為
- >第二号:前記第一号で商標を付けたものを譲渡等する行為
- >第三号:サービス提供に当たり客が利用する物に商標を付ける行為
>>【用語】「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」とは - >第四号:前記第三号で商標を付けたものを用いてサービスを提供する行為
- >第五号:サービス提供に用いる物に商標を付けたものを、サービス提供のために展示する行為
>>【用語】「役務の提供の用に供する物」とは - >第六号:サービス提供に当たり客のサービス対象物に商標を付ける行為
>>【用語】「役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物」とは - >第七号:インターネット等による画面を介したサービス提供に当たり、その画面に商標を表示してサービスを提供する行為
- >第八号:広告等に商標を付けて展示等するか、インターネット等で提供する行為
- >第九号:音の商標の場合は、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡等又はサービスの提供のために、音を発する行為
- >第十号:その他、政令で定める行為
- 商標としての使用であるか(巨峰事件)
- 商標権の効力が及ばない範囲(第26条)
- 関連情報
はじめに
- 商標の「使用」とは何か(使用の定義)は、商標権の侵害となるか否かや、不使用取消の対象となるか否か、などに関係する重要な概念です。
- 商標の使用について定義する商標法第2条第3項と、(商標権があっても第三者の使用が許される)商標権の効力が及ばない範囲についての商標法第26条を対象に、条文を解読してみます。特に、「商標の使用とは」何かについて、条文に沿って、また具体例を挙げて、解説します。具体例は、できるだけ条文に沿って記載しますので、条文との対応関係に注意して読んでみてください。
- 以下において、前提となる定義は、次のとおりです(商標法第2条第1項、第2項)。
◆「標章(ひょうしょう)」とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるものをいいます。
◆「商標(しょうひょう)」とは、標章であって、次に掲げるものをいいます。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
なお、第二号の役務には、小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供が含まれるものとする。
◆「役務(えきむ)」とは、他人のために行うサービスであって、且つ、独立して商取引の対象となり得るものをいいます。但し、小売及び卸売の業務において行われるサービスは、商標法上の役務に含まれます。 - 条文等は、本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。
第2条第3項(使用の定義と具体例)
この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
第一号:商品又はその包装に商標を付ける行為
【条文】 「商品」又は「商品の包装」に標章を付する行為
- 石鹸自体に(刻印により)商標を付ける行為
- 石鹸の包装箱に(印刷により)商標を付ける行為
第二号:前記第一号で商標を付けたものを譲渡等する行為
【条文】 「商品」又は「商品の包装」に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
- 石鹸自体に商標を付けたものを、販売したり、売り場に展示したりする行為
- 石鹸の包装箱に商標を付けたものを、販売したり、売り場に展示したりする行為
- プログラム起動時に商標が画面表示されるプログラムを、インターネットを通じたダウンロードにより提供する行為
第三号:サービス提供に当たり客が利用する物に商標を付ける行為
【条文】 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
- 「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」とは、サービス提供に当たり、その提供を受ける客が利用する物である。これには、譲渡し、又は貸し渡す物を含む。
- タクシーによる輸送サービスの提供に当たり、その提供を受ける客が利用する車両に、商標を付ける行為
- 飲食物の提供に当たり、その提供を受ける客が利用する物(しかも譲渡する物)である割り箸に、商標を付ける行為
- 飲食物の提供に当たり、その提供を受ける客が利用する物(しかも貸し渡す物)である食器に、商標を付ける行為
- 小売等役務の提供に当たり、その提供を受ける客が利用するショッピングカートや買い物かごに、商標を付ける行為
第四号:前記第三号で商標を付けたものを用いてサービスを提供する行為
【条文】 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
- 「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」には、「譲渡し、又は貸し渡す物を含む」(第三号括弧書き)。
- タクシーによる輸送サービスの提供に当たり、その提供を受ける客が利用する車両に商標を付けたものを用いて、サービスを提供する行為
- 飲食物の提供に当たり、その提供を受ける客が利用する物(しかも譲渡する物)である割り箸に商標を付けたものを用いて、サービスを提供する行為
- 飲食物の提供に当たり、その提供を受ける客が利用する物(しかも貸し渡す物)である食器に商標を付けたものを用いて、サービスを提供する行為
- 小売等役務の提供に当たり、その提供を受ける客が利用するショッピングカートや買い物かごに商標を付けたものを用いて、サービスを提供する行為
第五号:サービス提供に用いる物に商標を付けたものを、サービス提供のために展示する行為
【条文】 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
- 「役務の提供の用に供する物」とは、サービス提供のために用いる物であり、第三号や第四号の「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」を含む。そして、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」には、「譲渡し、又は貸し渡す物を含む」(第三号括弧書き)。
- 「役務の提供の用に供する物」には、サービスを提供する側(事業者)が用いる物と、サービスを提供される側(客)が用いる物とが含まれることになる。
- ピザを主とする飲食物の提供に関し、そのサービス提供に用いるピザ窯に商標を付けたものを、店内に設置して、サービス提供のために展示する行為
- タクシーによる輸送サービスの提供に関し、そのサービス提供に用いる車両に商標を付けたものを、タクシー乗り場に駐車して、サービス提供のために展示する行為
- 飲食物の提供に関し、そのサービス提供を受ける客が利用する物(しかも譲渡又は貸渡する物)である割り箸又はナイフ・フォークに商標を付けたものを、テーブルに配置して、サービス提供のために展示する行為
第六号:サービス提供に当たり客のサービス対象物に商標を付ける行為
【条文】 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
- 「役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物」とは、サービス提供に当たりその提供を受ける客の物であって、当該サービスが施される物をいう。
- プリンターの修理サービスの提供に当たり、その提供を受ける客のプリンター(修理サービス対象物)に商標を付ける行為
第七号:インターネット等による画面を介したサービス提供に当たり、その画面に商標を表示してサービスを提供する行為
【条文】 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号…において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
- インターネットバンキング(インターネットによる銀行業務)に関し、インターネット接続されたディスプレイ画面を介した銀行業務の提供に当たり、その画面に商標を表示してサービスを提供する行為
- 小売等役務の提供に関し、インターネット接続されたディスプレイ画面を介したサービス提供に当たり、その画面に商標を表示してサービスを提供する行為(商品の品揃えや説明など)
第八号:広告等に商標を付けて展示等するか、インターネット等で提供する行為
【条文】 商品若しくは役務に関する「広告、価格表若しくは取引書類」に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
- 商品又は役務に関する広告(看板やチラシなど)、価格表、取引書類(注文書やカタログなど)に、商標を付けて展示や頒布するか、又はそのような内容の情報(バナー広告など)に商標を付けてインターネット等で提供する行為
第九号:音の商標の場合は、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡等又はサービスの提供のために、音を発する行為
【条文】 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、「商品の譲渡若しくは引渡し」又は「役務の提供」のために音の標章を発する行為
第十号:その他、政令で定める行為
【条文】 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為
商標としての使用であるか
商標は、自分の商品等と他人の商品等とを識別するために用いられ、自他商品等の識別力、出所表示機能を発揮し得る状態で使用される必要があります。つまり、ネーミングやマークなどが「商標として」使用される必要があります。そのため、形式的には前記「使用」に該当する行為であっても、単にデザインとしてのみ認識されたり、商品等の説明として使用されたりする場合、商標権の侵害とならない場合もあります。
巨峰事件(福岡地裁飯塚支部昭46年9月17日)
「包装用容器」について「巨峰」等の商標権を有する申請人が、「巨峰」等の文字を入れた被申請人のぶどう出荷用段ボールの製造販売等の差止めを求めた仮処分事件です。裁判所は、次のとおり認定して、商標権の侵害を否定し、仮処分申請を却下しました。
『ところで、商標は、商品の出所を表示して営業者が自己の商品を他人の商品から区別する作用を有するものであり、営業者が自己の営業にかかる商品であることを表彰するためその商品について使用するものである。・・・
被申請人は、別紙目録記載のA・Bの各段ボール箱を、右ぶどう「巨峰」の生産者にその出荷用の包装用容器として販売するため製造しているものであつて、本件各段ボール箱に前記認定の如く表示されている「巨峰」、「KYOHO」等の文字は、その内容物たるぶどう巨峰を表示する目的のもとに印刷したものであると認められる。即ち、これらの文字は、被申請人の取扱う商品たる段ボール箱(包装用容器)の出所を表示し、あるいはその出所の判定を混乱させる目的をもつて表示されたものではないことが明らかである。・・・
しかして、先に認定したとおり本件においては、A箱、B箱共に見易い位置に見易い形状で「巨峰」又は「KYOHO」と印刷されており、更に、「BEST GRAPE」又は「HIGH GRAPE」と印刷されていると共にぶどう葉型の窓から内容物を見ることができるようになつているのであつて、これらの事実を考えれば、本件A箱、B箱の「巨峰」「KYOHO」の各文字は、客観的にみても内容物たるぶどうの商品名の表示と解するのが相当である。』
商標権の効力が及ばない範囲
第26条(商標権の効力が及ばない範囲)
商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
一 『自己の「肖像」』又は『自己の「氏名若しくは名称」若しくは「著名な雅号、芸名若しくは筆名」若しくは「これら(氏名・名称・雅号・芸名・筆名)の著名な略称」』を普通に用いられる方法で表示する商標
二 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の『普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、「生産若しくは使用の方法若しくは時期」その他の特徴』、『数量』若しくは『価格』
又は当該指定商品に類似する役務の『普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、「提供の方法若しくは時期」その他の特徴』、『数量』若しくは『価格』
を普通に用いられる方法で表示する商標
三 当該指定役務若しくはこれに類似する役務の『普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、「提供の方法若しくは時期」その他の特徴』、『数量』若しくは『価格』
又は当該指定役務に類似する商品の『普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、「生産若しくは使用の方法若しくは時期」その他の特徴』、『数量』若しくは『価格』
を普通に用いられる方法で表示する商標
四 当該指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について慣用されている商標
五 商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標
2 前項第一号の規定は、商標権の設定の登録があつた後、不正競争の目的で、『自己の「肖像」』又は『自己の「氏名若しくは名称」若しくは「著名な雅号、芸名若しくは筆名」若しくは「これら(氏名・名称・雅号・芸名・筆名)の著名な略称」』を用いた場合は、適用しない。
3 商標権の効力は、次に掲げる行為には、及ばない。ただし、その行為が不正競争の目的でされない場合に限る。
一 特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成26年法律第84号。以下この項において「特定農林水産物等名称保護法」という。)第3条第1項(特定農林水産物等名称保護法第30条において読み替えて適用する場合を含む。次号及び第三号において同じ。)の規定により特定農林水産物等名称保護法第6条の登録に係る特定農林水産物等名称保護法第2条第2項に規定する特定農林水産物等(当該登録に係る特定農林水産物等を主な原料又は材料として製造され、又は加工された同条第1項に規定する農林水産物等を含む。次号及び第三号において「登録に係る特定農林水産物等」という。)又はその包装に同条第3項に規定する地理的表示(次号及び第三号において「地理的表示」という。)を付する行為
二 特定農林水産物等名称保護法第3条第1項の規定により登録に係る特定農林水産物等又はその包装に地理的表示を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
三 特定農林水産物等名称保護法第3条第1項の規定により登録に係る特定農林水産物等に関する広告、価格表若しくは取引書類に地理的表示を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に地理的表示を付して電磁的方法により提供する行為
関連情報
- 商標登録とは・商標権の取り方
- 商標権の効力
- 商標の類否(類似/非類似)
- 商標登録表示とその例(登録商標使用時の留意点)
- 商標登録表示と虚偽表示(商標法第73条、第74条、第80条、第82条の条文解読)
- 商標の不使用取消審判(商標法第50条の条文解読)
- 商標法3条・4条(条文解読)
(作成2021.08.29、最終更新2022.06.21)
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