商標登録表示と虚偽表示(商標法第73条、第74条、第80条、第82条の条文解読)

はじめに

  • 商標法第73条、第74条、第80条、第82条第1項について、条文を解読してみます。
  • 商標登録表示の励行、虚偽表示の禁止、虚偽表示の罪、に関する規定です。
  • 条文等は、本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。
  • 参考文献:特許庁『工業所有権法逐条解説 第21版』

 


目次

 


(商標登録表示)
第73条

商標権者、専用使用権者又は通常使用権者は、
経済産業省令で定めるところにより、
 ・「指定商品」若しくは「指定商品の包装」若しくは「指定役務の提供の用に供する物」に登録商標を付するとき、
 ・又は「指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該指定役務の提供に係る物」に登録商標を付するときは、
その『商標』に
その商標が登録商標である旨の表示(以下「商標登録表示」という。)」
を付するように努めなければならない。

  • 権利者は、
    経済産業省令で定めるところにより、
     ・「指定商品」又は「その包装」に登録商標を付するとき、
     ・「指定役務の提供の用に供する物」に登録商標を付するとき、
     ・「指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該指定役務の提供に係る物」に登録商標を付するときは、
    その『商標』に
    商標登録表示」を付するように努めなければならない。
  • 「努めなければならない」とあるので、義務ではない。商標登録表示しないことによる制裁はない
  • 商標登録表示を行うことは、第三者による無断使用を躊躇させるので、侵害の未然防止に役立つ。そのため、できるだけ商標登録表示をするのが好ましい
  • 指定役務の提供の用に供する物」とは?
    ・「役務の提供の用に供する物」とは、サービス提供のために用いる物であり、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」を含む(第2条第3項第五号括弧書き)。そして、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」には、「譲渡し、又は貸し渡す物を含む」(第2条第3項第三号括弧書き)。
    ・「役務の提供の用に供する物」には、サービスを提供する側(事業者)が用いる物と、サービスを提供される側(客)が用いる物とが含まれることになる。
    ・ピザを主とする飲食物の提供に当たり、そのサービス提供に用いるピザ窯
    ・タクシーによる輸送サービスの提供に当たり、そのサービス提供に用いる車両
    ・飲食物の提供に当たり、そのサービス提供を受ける客が利用する割り箸又はナイフ・フォーク
  • 指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該指定役務の提供に係る物」とは?
    ・「役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物」とは、サービス提供に当たりその提供を受ける客の物であって、当該サービスが施される物をいう。
    ・プリンターの修理サービスの提供に当たり、その提供を受ける客のプリンター(修理サービス対象物)
  • 「商標登録表示」とは?
    商標登録表示とは、「指定商品」、「指定商品の包装」、「指定役務の提供の用に供する物」、「指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該指定役務の提供に係る物」に付される商標への表示であって、その商標が登録商標である旨の表示をいう。もう少し分かりやすくいえば、「指定商品」、「指定商品の包装」、「指定役務の提供に用いる物(事業者又は客が用いる物)」、「指定役務の提供に当たりその提供を受ける客の物であって当該役務が施される物」に商標を付す際になされる表示であって、その商標が商標権の対象となっている旨の表示をいう。
  • 経済産業省令とは?
    商標法施行規則 第17条(商標登録表示)
    商標法第73条の商標登録表示は、
    「登録商標」の文字及びその登録番号又は国際登録の番号とする。
  • 商標登録表示の仕方
    登録商標第○○○○○○○号

 


(虚偽表示の禁止)
第74条

何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

 一 「登録商標以外の商標」の使用をする場合において、その商標に『商標登録表示』又は『これと紛らわしい表示』を【付する】行為

  • 未登録商標への商標登録表示の禁止(商標が登録商標でない場合)
  • 商標権者は、「指定商品又は指定役務」について『登録商標』の使用をする権利を専有する(第25条本文)。この専用権の範囲でのみ、法的に独占排他的使用が認められており、商標登録表示が可能である。登録商標の類似範囲(禁止権の範囲)については、権利者による積極的な使用が認められている訳ではないので、商標登録表示は禁止される。専用権と禁止権については、商標権の効力をご覧ください。
  • 登録商標とは、商標登録を受けている商標をいう(第2条第5項)。

 

 二 「指定商品又は指定役務以外の商品又は役務」について「登録商標」の使用をする場合において、その商標に『商標登録表示』又は『これと紛らわしい表示』を【付する】行為

  • 指定商品等以外への商標登録表示の禁止(商品等が指定商品等でない場合)
  • 第一号で登録商標でない場合の表示を禁止しており、第二号で、登録商標であっても、指定商品等以外への表示を禁止している。

 

 三 「商品若しくはその商品の包装」に「登録商標以外の商標」を付したもの、
指定商品以外の商品若しくはその商品の包装」に「商品に係る登録商標」を付したもの
又は「商品若しくはその商品の包装」に「役務に係る登録商標」を付したものであつて、
その商標に『商標登録表示』又は『これと紛らわしい表示』を付したものを
譲渡又は引渡しのために【所持】する行為

  • 商品に関して、第一号・第二号の行為の結果物を、譲渡・引渡のために【所持】する行為の禁止
  • 商品・包装」に「登録商標以外の商標」を付したもの、
    指定商品以外の商品・包装」に「商品に係る登録商標」を付したもの、
    商品・包装」に「役務に係る登録商標」を付したもの、であって、
    その商標に『商標登録表示』又は『これと紛らわしい表示』を付したものを
    譲渡・引渡のために【所持】する行為

 

 四 「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に「登録商標以外の商標」を付したもの、
指定役務以外の役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に「役務に係る登録商標」を付したもの
又は「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に「商品に係る登録商標」を付したものであつて、
その商標に『商標登録表示』又は『これと紛らわしい表示』を付したもの(次号において「役務に係る虚偽商標登録表示物」という。)
これを用いて当該役務を提供するために【所持】し、又は【輸入】する行為

  • 役務に関して、第一号・第二号の行為の結果物を、自ら役務を提供するために【所持】・【輸入】する行為の禁止
  • 役務の提供に当たりその提供を受ける客が利用する物」に「登録商標以外の商標」を付したもの、
    指定役務以外の役務の提供に当たりその提供を受ける客が利用する物」に「役務に係る登録商標」を付したもの、
    役務の提供に当たりその提供を受ける客が利用する物」に「商品に係る登録商標」を付したもの、であって、
    その商標に『商標登録表示』又は『これと紛らわしい表示』を付したものを
    これを用いて当該役務を提供するために【所持】・【輸入】する行為
  • 上記において、上4行を「役務に係る虚偽商標登録表示物」という。そのため、第四号を、次のようにまとめることができる。
  • 役務に係る虚偽商標登録表示物
    これを用いて当該役務を提供するために【所持】・【輸入】する行為
  • 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」とは?
    「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」とは、サービス提供に当たり、その提供を受ける客が利用する物である。言い換えれば、サービス提供に当たり、需要者に利用させることとなる物である。「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」には、「譲渡し、又は貸し渡す物を含む」(第2条第3項第三号括弧書き)。
    ・タクシーによる輸送サービスの提供に当たり、その提供を受ける客が利用する車両
    ・飲食物の提供に当たり、その提供を受ける客が利用する割り箸又はナイフ・フォーク

 

 五 「役務に係る虚偽商標登録表示物」を、
これを用いて当該役務を提供させるために「譲渡し」、「引き渡し」、又は「譲渡若しくは引渡しのために所持し、若しくは輸入する」行為

  • 役務に関して、第一号・第二号の行為の結果物を、他人に役務を提供させるために【譲渡】・【引渡】・【譲渡・引渡のために所持・輸入】する行為の禁止
  • 役務に係る虚偽商標登録表示物」を、
    これを用いて当該役務を提供させるために【譲渡】・【引渡】・【譲渡・引渡のために所持・輸入】する行為

 


(虚偽表示の罪)
第80条

第74条(虚偽表示の禁止)の規定に違反した者は、
3年以下の懲役」又は「300万円以下の罰金」に処する。

 


(両罰規定)
第82条

「法人の代表者」又は「法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者」が、
その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、
行為者を罰するほか、
その法人に対して当該各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。

 一 省略

 二 ・・・第80条 1億円以下の罰金刑

  • 両罰規定
    「法人の代表者」又は「法人・人の代理人・使用人等」が、
    その法人・人の業務に関し、所定の違反行為をしたときは、
    行為者を罰するほか、
    その法人・人に対しても罰金刑を科する。
  • 法人重課(ほうじんじゅうか)
    法人に対する罰金刑を、自然人に対するものよりも重くする。
    ・第80条(虚偽表示の罪)=300万円以下の罰金(又は3年以下の懲役)
    ・第82条(両罰規定)=【法人】1億円以下の罰金、【自然人】300万円以下の罰金(第80条)

2~3 省略

 


関連情報

 


(作成2022.06.21、最終更新2022.06.21)
出典を明示した引用などの著作権法上の例外を除き、無断の複製、改変、転用、転載などを禁止します。
Copyright©2022 Katanobu Koyama. ALL RIGHTS RESERVED.