特許請求の範囲の具体例

はじめに

  • 特許を受けようとする者は、願書に、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付して、特許庁長官に提出しなければなりません。
  • 明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載します。
  • 特許請求の範囲には、「請求項」と呼ばれる項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければなりません。この記載に基づいて、審査対象の発明が把握され、特許後には権利範囲が特定されます。詳細は、特許請求の範囲について、または末尾の関連情報をご確認ください。
  • 特許請求の範囲に記載の発明が、明細書及び図面で具体的に説明されます。逆にいえば、明細書及び図面に記載した発明の内、特許を受けようとする発明が、特許請求の範囲に記載されます。
  • 特許請求の範囲(又はその請求項)を「クレーム(claim)」ということがあります。

 


特許請求の範囲の具体例

  • 以下に、特許請求の範囲の具体例を示します。弊所の専門分野との関係で、機械、制御、ビジネスモデル特許の事例が多いです。
  • 特許庁審査基準の例を参考に、一部変更して掲載しております。新規性または進歩性などの特許要件を具備しない可能性もあります。特許庁審査基準の例といっても、特許請求の範囲の書き方という観点で示されたものではなく、他の用途(補正の適否の事例など)で示されたものを用いています。特許請求の範囲をどのような記載振りとするかは、出願人が決めるものです(特許法第36条第5項)。最低限の記載要件については規定されていますが、実体的内容については出願人が決めるものです。そのため、同じ発明でも、様々な記載振りが考えられます。出願人自身が、権利範囲が広く、発明が明確で、分かりやすい(審査官等が読みやすい)、と考える記載振りにします。
  • 一部の事例は、実際の特許公報からピックアップしました。但し、若干、アレンジした箇所があります。事例の特許の発明者様、(元)権利者様及び代理人様と、弊所とは一切関係ありません。技術内容が分かりやすく、特許請求の範囲の記載も分かりやすく、さらに出願から20年以上経過していることを考慮し、事例として挙げさせていただきました。関係者の皆様には何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。
  • 下線や色を付した箇所がありますが、説明用です。実際の出願書類には付けません。下線は、出願後の補正(補充又は訂正)時に、補正箇所を示すのに用います。

 


【特許請求の範囲:例1】

コンバインの走行装置におけるローリング制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 クローラー式の走行装置を機体の左右に有するコンバインにおいて、
 右および左の走行装置に個別に作動する一対の油圧シリンダーの一端を取り付け、この油圧シリンダーのもう一端を機体に取り付けた
 ことを特徴とするローリング制御装置。

*クローラーとは、キャタピラー、無限軌道のことです。なお、「CATERPILLAR」は、登録商標です。

 


【特許請求の範囲:例2】

自動点滅装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 照明灯(1)の光の一部を受ける遅動性光導電素子(2)によって作動されるリレー(3)により接点(4)を駆動して照明灯(1)の回路を開閉する
 ことを特徴とする自動点滅装置。

図面

*請求項の記載の内容を理解するため必要があるときは、願書に添付した図面において使用した符号を括弧をして用いることができます(特許法施行規則 様式29の2〔備考〕14)。

 


【特許請求の範囲:例3】

シリアル型サーマルプリンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 ヘッド基板上の一側辺部にこれと平行に多数の発熱抵抗体が連設された発熱抵抗体群を具備して成るサーマルプリントヘッドを、熱転写リボンと被転写紙とを介在させるか、または感熱紙を介在させて、プラテンゴムに圧接して印字を行うサーマルプリンタにおいて、
 前記サーマルプリントヘッドが前記プラテンゴムに対しその摺動方向に斜めに配置された
 ことを特徴とするシリアル型サーマルプリンタ。

*単に「斜めに配置された」ではなく、特定の角度で配置されたことが特徴ならば、たとえば「1~15度の角度で斜めに配置された」と数値限定することもできます。請求項1はそのままとして、請求項2において数値限定することも考えられます。

 


【特許請求の範囲:例4】

自閉式引戸装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 間口の上部に傾斜して取り付けられる上レールと、この上レール内を走行する戸車と、この戸車に連結されて前記上レールより吊設される扉とから構成され、前記扉が自重によって自動的に閉鎖するように構成された自閉式の引戸装置において、
 前記扉が前記間口を閉鎖する際に、前記扉の閉鎖速度を調整する制動装置を備えた
 ことを特徴とする自閉式引戸装置。
【請求項2】
 前記制動装置は、前記上レールの近傍に取り付けられたエアシリンダである
 ことを特徴とする請求項1に記載の自閉式引戸装置。
【請求項3】
 前記制動装置は、前記上レールに取り付けられたラックと、前記戸車の近傍に取り付けられた制動用ピニオンである
 ことを特徴とする請求項1に記載の自閉式引戸装置。

*ある請求項にそれ以前に記載した他の請求項を引用して「請求項*に記載の…」の文言がある請求項を「従属項(従属クレーム)」といい、そのような引用のない請求項を「独立項(独立クレーム)」といいます。ここでは、請求項1が独立項、請求項2および請求項3が従属項です。

 


【特許請求の範囲:例5】

自動車エンジン用燃料噴射量制御装置および方法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 自動車エンジンの燃料噴射量を制御する装置であって、
 エンジンの回転数を検出する第一検出手段と、
 エンジンの回転数の変化を検出する第二検出手段と、
 前記第一検出手段の検出値と前記第二検出手段の検出値とに応じて燃料噴射量を決定する燃料噴射量決定手段と
 を備えたことを特徴とする自動車エンジン用燃料噴射量制御装置。
【請求項2】
 自動車エンジンの燃料噴射量を制御する方法であって、
 エンジンの回転数を検出する工程と、
 エンジンの回転数の変化を検出する工程と、
 エンジンの回転数とエンジンの回転数の変化とに応じて燃料噴射量を決定する工程と
 を含むことを特徴とする自動車エンジン用燃料噴射量制御方法。

「装置」と「方法」を一出願で権利請求できる場合も多いです。
*請求項2は、方法(単純方法)の発明です。後述する「和菓子の製造方法」のように、製造方法(物を生産する方法)の発明もあります。特許法では、「物の発明」「方法(単純方法)の発明」および「物を生産する方法(製造方法)の発明」に分けて規定されています。

 


【特許請求の範囲:例6】

和菓子の製造方法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 加糖あんと、ゲル化剤を含む加糖水とを混合し、これを撹拌しながら加熱して包装容器に充填密封し、100℃以上で殺菌した後、容器の外側の温度が80±10℃となるよう調整しながら徐冷し、その後室温またはそれ以下に冷却する
 ことを特徴とする和菓子の製造方法。

製造方法(物を生産する方法)の発明です。

 


【特許請求の範囲:例7】

両口二重瓶の製造方法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 上部開口を有する外瓶内に、同じく上部開口を有する内瓶を、両者間に間隙を介在させ且つ両底部中央間を他の部分より狭隘となした状態で配設固定する仮止工程と、
 前記内外瓶の両上部開口縁を溶着して上口を形成する上口形成工程と、
 前記内外瓶の底部中央の間隙狭隘部分を加熱溶着した後、この溶着部分に穿孔手段により貫通穴を形成し、その後この貫通穴に整形用治具を入れて前記貫通穴の整形を行って下口を形成する下口形成工程と
 を順次行うことを特徴とする両口二重瓶の製造方法。

*両口二重瓶は、魔法瓶などに使用されるようです。
製造方法(物を生産する方法)の発明です。

 


【特許請求の範囲:例8】

カードゲーム装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 コンピュータを利用したカードゲーム装置において、
 複数枚のカードの組み合わせに対して所定の役データが対応させられている役データテーブルと、役データに対して得点データが対応させられている得点データテーブルとを記憶する記憶手段と、
 選択された複数枚のカードの組み合わせを基に前記役データテーブルを検索して対応する役データを抽出し、該役データを基に前記得点データテーブルを検索して対応する得点データを抽出し、抽出された前記役データの全ておよび前記得点データの合計得点を出力する検索出力手段と
 を備えることを特徴とするカードゲーム装置。

*コンピュータ・ソフトウェア関連発明

 


【特許請求の範囲:例9】

ゲーム装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 3次元コンピュータグラフィックスで表示され、相似形を有する大小の駒の4個を使用して行うゲームの処理をコンピュータに実行させるゲーム装置であって、
 4個の駒を大きいものより順次に積み重ねたものを、任意に定めた3個の陣地の1カ所においた初期状態にする初期化手段と、
 遊戯者の操作により積み重ねた最上部の駒を1度に1個のみ動かす駒移動手段と、
 前記操作により駒を動かした回数を記憶する駒移動回数記憶手段と、
 前記1カ所以外の陣地に4個の駒が大きいものより順次に積み重ねられた最終状態であることを判定する判定手段と、
 最終状態であると判定された場合に前記駒移動回数記憶手段に記憶された駒移動回数を報知する報知手段と
 を備えることを特徴とするゲーム装置。

*コンピュータ・ソフトウェア関連発明

 


【特許請求の範囲:例10】

化学物質検索装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 複数の化学物質について、化学物質名、該化学物質の用途および化学構造式を対応付けて記憶する化学物質特性データ記憶手段と、
 複数の化学物質について、化学物質名、該化学物質の1グラム当たりの価格および取扱事業者名を対応付けて記憶する化学物質販売データ記憶手段と、
 化学物質の用途または化学構造式を検索キーとして入力する入力手段と、
 前記入力手段により入力された検索キーに基づいて、前記化学物質特性データ記憶手段から入力された検索キーに対応する化学物質名、化学物質の用途および化学構造式を抽出する化学物質特性データ検索手段と、
 前記化学物質特性データ検索手段により抽出された化学物質名に基づいて、前記化学物質販売データ記憶手段から、対応する化学物質の1グラム当たりの価格および取扱事業者名を抽出する化学物質販売データ検索手段と、
 前記化学物質特性データ検索手段により抽出された化学物質名、該化学物質の用途および構造式と、前記化学物質販売データ検索手段により抽出された化学物質の1グラム当たりの価格および取扱事業者名を対応付けてディスプレイ画面に表示する表示手段と
 を備えることを特徴とする化学物質検索装置。

*コンピュータ・ソフトウェア関連発明

 


【特許請求の範囲:例11】

ネットワーク配信記事保存方法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 受信手段が、通信ネットワークを介して配信される記事を受信するステップ、
 表示手段が、受信した記事を表示するステップ、
 記事保存判断手段が、該記事の文章中に所定のキーワードが存在するか否かを判断し、存在した場合に保存指令を記事保存実行手段に与えるステップ、
 前記記事保存実行手段が、保存指令が与えられた記事を記事記憶手段に記憶するステップ
 を含むことを特徴とするネットワーク配信記事保存方法。

*ビジネスモデル特許(ビジネス方法)であり、「方法」として権利請求しています。

 


【特許請求の範囲:例12】

ポイントサービス方法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 インターネット上の店で商品を購入した金額に応じてポイントを与えるサービス方法において、
 贈与するポイントの量と贈与先の名前がインターネットを介してサーバに入力されるステップと、
 サーバが、贈与先の名前に基づいて顧客リスト記憶手段に記憶された贈与先の電子メールアドレスを取得するステップと、
 サーバが、前記ポイントの量を、顧客リスト記憶手段に記憶された贈与先のポイントに加算するステップと、
 サーバが、サービスポイントが贈与されたことを贈与先の電子メールアドレスを用いて電子メールにて贈与先に通知するステップと
 を含むことを特徴とするポイントサービス方法。

*ビジネスモデル特許(ビジネス方法)であり、「方法」として権利請求しています。

 


【特許請求の範囲:例13】

商品の売上げ予測プログラム、当該予測プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び商品の売上げ予測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 種々の商品の売上げを予測するためにコンピュータを、
 売上げを予測しようとする日を入力する手段、
 予め過去の売上げ実績データを記録しておく売上げデータ記録手段、
 予め変動条件データを記録しておく変動条件データ記録手段、
 予め補正ルールを記録しておく補正ルール記録手段、
 過去数週間の予測しようとする日と同じ曜日の売上げ実績データを売上げデータ記録手段から読み出し平均して第1の予測値を得る手段、
 変動条件データ記録手段から商品の売上げを予測しようとする日の変動条件データを読み出し、該変動条件データに基づき補正ルール記録手段に記録された補正ルールの中から適用すべき補正ルールを選択する手段、
 適用すべき補正ルールに基づき第1の予測値を補正して第2の予測値を得る手段、及び
 第2の予測値を出力する手段、
 として機能させるための商品の売上げ予測プログラム
【請求項2】
 種々の商品の売上げを予測するためにコンピュータを、
 売上げを予測しようとする日を入力する手段、
 予め過去の売上げ実績データを記録しておく売上げデータ記録手段、
 予め変動条件データを記録しておく変動条件データ記録手段、
 予め補正ルールを記録しておく補正ルール記録手段、
 過去数週間の予測しようとする日と同じ曜日の売上げ実績データを売上げデータ記録手段から読み出し平均して第1の予測値を得る手段、
 変動条件データ記録手段から商品の売上げを予測しようとする日の変動条件データを読み出し、該変動条件データに基づき補正ルール記録手段に記録された補正ルールの中から適用すべき補正ルールを選択する手段、
 適用すべき補正ルールに基づき第1の予測値を補正して第2の予測値を得る手段、及び
 第2の予測値を出力する手段、
 として機能させるための商品の売上げ予測プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体
【請求項3】
 種々の商品の売上げを予測する装置であって、
 売上げを予測しようとする日を入力する手段、
 予め過去の売上げ実績データを記録しておく売上げデータ記録手段、
 予め変動条件データを記録しておく変動条件データ記録手段、
 予め補正ルールを記録しておく補正ルール記録手段、
 過去数週間の予測しようとする日と同じ曜日の売上げ実績データを売上げデータ記録手段から読み出し平均して第1の予測値を得る手段、
 変動条件データ記録手段から商品の売上げを予測しようとする日の変動条件データを読み出し、該変動条件データに基づき補正ルール記録手段に記録された補正ルールの中から適用すべき補正ルールを選択する手段、
 適用すべき補正ルールに基づき第1の予測値を補正して第2の予測値を得る手段、及び
 第2の予測値を出力する手段、
 からなる商品の売上げ予測装置

*ビジネスモデル特許であり、請求項1は「プログラム」、請求項2は「記録媒体」、請求項3は「装置」について、権利請求しています。

 


【特許請求の範囲:例14】

ウェブ情報提供方法およびウェブサーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
 ウェブサーバが、少なくとも一つの基地局を有する移動通信ネットワークおよび汎用ネットワークを含む通信ネットワークを介して、持ち運び可能なユーザ端末にウェブ情報を提供するウェブ情報提供方法において、
 ウェブサーバが、前記基地局に接続される毎にユーザ端末に割り当てられるIPアドレス、および前記ユーザ端末が接続された基地局が有するID情報との対応を記憶保持し、前記移動通信ネットワークに接続され、前記汎用ネットワークを介してアクセス可能なIPアドレス対ID情報データベースにアクセスして、IPアドレスを用いて前記ユーザ端末が接続されている基地局を判別する判別ステップと、
 ウェブサーバが、前記判別された基地局に基づいて、該基地局が属する地域に対応したウェブ情報を選択する選択ステップと、
 ウェブサーバが、前記選択されたウェブ情報を、前記ユーザ端末に送信する送信ステップと、
 を有するウェブ情報提供方法
【請求項2】
 汎用ネットワークに接続され、少なくとも一つの基地局を有する移動通信ネットワークおよび前記汎用ネットワークを含む通信ネットワークを介して、持ち運び可能なユーザ端末にウェブ情報を提供するウェブサーバであって、
 前記基地局に接続される毎に前記ユーザ端末に割り当てられるIPアドレス、および前記ユーザ端末が接続された基地局が有するID情報との対応を記憶保持し、前記移動通信ネットワークに接続され、前記汎用ネットワークを介してアクセス可能なIPアドレス対ID情報データベースにアクセスして、IPアドレスを用いて、前記ユーザ端末が接続されている基地局を判別する判別手段と、
 前記判別された基地局に基づいて、該基地局が属する地域に対応したウェブ情報を選択する選択手段と、
 前記選択されたウェブ情報を、前記ユーザ端末に送信する送信手段と、
 を有するウェブサーバ

*ビジネスモデル特許とみてよいと思います。請求項1は「方法」、請求項2は「ウェブサーバ」について、権利請求しています。

 


関連情報

 


(作成2019.08.25、最終更新2019.09.12)
出典を明示した引用などの著作権法上の例外を除き、無断の複製、改変、転用、転載などを禁止します。
Copyright©2019 Katanobu Koyama. ALL RIGHTS RESERVED.