特許請求の範囲の読み方/書き方

特許請求の範囲の読み方/書き方

  • 特許請求の範囲の読み方と書き方についての解説です。
  • 特許請求の範囲について述べますが、実用新案登録請求の範囲についても同様です。「特許請求の範囲」を「実用新案登録請求の範囲」に、「発明」を「考案」に置き換えてください。
  • 特許請求の範囲について」や「特許請求の範囲の書き方(実践編)」などの資料もご用意しております。

 


おことわり

  • できるだけ一般的な見解を目指したつもりですが、弊所独自の見解が含まれる場合があります。
  • 事例の出願は、実際の公開特許公報からピックアップしました。但し、若干、アレンジした箇所があります。
  • 事例の出願は、実体審査を受けることなく、出願が取下げ扱いになっています。つまり、特許になった訳ではなく、かといって拒絶になった訳でもありません。
  • 事例の出願の発明者様、出願人様及び代理人様と、弊所とは一切関係ありません。技術内容が分かりやすく、特許請求の範囲の記載も分かりやすく、さらに出願から20年以上経過していることを考慮し、事例として挙げさせていただきました。関係者の皆様には何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

 


関連情報

 


はじめに

  • 特許を受けようとする者は、願書に、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付して、特許庁長官に提出しなければなりません。
  • 明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載します。
  • 特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明を記載します。この記載に基づいて、審査対象の発明が把握され、特許後には権利範囲が特定されます。
  • 特許請求の範囲に記載の発明が、明細書及び図面で具体的に説明されます。逆にいえば、明細書及び図面に記載した発明の内、特許を受けようとする発明が、特許請求の範囲に記載されます。
  • 特許公報を読む場合、いきなり特許請求の範囲を読むと、難解な場合も多いです。明細書及び図面を読んだ後、特許請求の範囲を読む方が分かりやすいです。
  • 特許請求の範囲(又は後述する請求項)を「クレーム(claim)」ということがあります。

 


特許請求の範囲の記載要件

  • 請求項」と呼ばれる項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければなりません。言い換えれば、各請求項ごとに、特許出願人が特許を受けようとする発明の発明特定事項過不足なく記載します。特許出願人が特許を受けようとする発明を特定する際に、全く不要な事項を記載したり、逆に必要な事項を記載しなかったりすることがないようにしなければなりません。発明特定事項として必要か否かは、出願人自らが判断します。
  • 発明の詳細な説明に記載していることが必要です。特許は新規発明を開示した代償として付与されるものですから、明細書に開示した発明の内から特許を受けようとする発明を特許請求の範囲に記載します。
  • 発明が明確で、記載が簡潔であることが必要です。
  • その他所定の形式で記載することが必要です。

 


事例

※あとで順に読んでいきますので、現時点で読み込む必要はありません。

【発明の名称】 多機能ペン
【発明の概略】 1本のペンにマーカーペンとスタイラスペンとの機能を持たせる。具体的には、ホワイトボードなどへの筆記用のマーカーペンと、筆記跡を残さずにコンピュータに位置座標入力するためのスタイラスペンとを組み合わせた多機能ペンである。マーカーペンのキャップにスタイラスペン用ペン先を取り付けて構成される。
【特許請求の範囲】
 【請求項1】 媒体に対する筆記具及び位置座標入力具として使用される多機能ペンであって、内部にインクが充填された本体と、この本体に取り付けられて前記インクを外部に導出するマーカーペン用ペン先と、前記マーカーペン用ペン先を覆うように前記本体に着脱可能に装着されるキャップと、前記キャップに突設されたスタイラスペン用ペン先と、を備えたことを特徴とする多機能ペン。
 【請求項2】 前記スタイラスペン用ペン先は、前記媒体側に設けられた感圧センサを加圧することにより位置座標を入力することを特徴とする請求項1に記載の多機能ペン。
 【請求項3】 前記スタイラスペン用ペン先は、前記媒体側に設けられた電磁センサとの電磁作用により位置座標を入力することを特徴とする請求項1に記載の多機能ペン。
【図面】
特許請求の範囲の読み方【事例】

 


技術的な前提知識

  • 「スタイラスペン」とは、スマホ、タブレット又は電子辞書などの画面操作に用いるタッチペンのことです。
  • 電子辞書の「デジタル大辞泉」(小学館)によれば、次のとおりです。
    「スタイラスペン[stylus pen] PDA、タブレット、デジタイザーなどで使用するペン型の入力装置。ペンの位置や動きの検出方法には、電磁誘導式と感圧式がある。スタイラス。タッチペン。」

 


特許請求の範囲の読み方

いよいよ特許請求の範囲を読んでいきます。

各請求項が前述のような一連の文では、読みにくいです。

次のように、(改行やスラッシュ/などで)区切りをつけると共に、登場する構成要素(構成要件)に参照符号を付してみます。出願人は、特許請求の範囲を作成する際(つまり出願書類において)、このように適宜改行を入れたり、参照符号を括弧書きで入れたりする場合もあります。

但し、(下記では説明の便宜上行っていますが)太字にしたり、色を付したりするなどの装飾を施すことはできません。また、出願時には、下線も付しません。下線は、出願後に書類を補正(修正)する際、補正箇所を示すのに用います。

 

【書類名】特許請求の範囲
【請求項1】
 媒体に対する筆記具及び位置座標入力具として使用される多機能ペンであって、
 内部にインクが充填された本体(11)と、
 この本体(11)に取り付けられて前記インクを外部に導出するマーカーペン用ペン先(13)と、
 前記マーカーペン用ペン先(13)を覆うように前記本体(11)に着脱可能に装着されるキャップ(21)と、
 前記キャップ(21)に突設されたスタイラスペン用ペン先(22)と、
 を備えたことを特徴とする多機能ペン
【請求項2】
 前記スタイラスペン用ペン先(22)は、前記媒体側に設けられた感圧センサを加圧することにより位置座標を入力する
 ことを特徴とする請求項1に記載の多機能ペン
【請求項3】
 前記スタイラスペン用ペン先(22)は、前記媒体側に設けられた電磁センサとの電磁作用により位置座標を入力する
 ことを特徴とする請求項1に記載の多機能ペン

 


請求項の末尾を確認する

特許請求の範囲には、「特許が欲しいもの」が記載されます。

出願人は、何を求めているでしょうか?

請求項の末尾に記載されています。
通常、発明の名称と一致し、「」又は「方法」になっています。

ここでは、ズバリ「多機能ペン」です。
つまり、特許請求の範囲において、出願人は、「多機能ペン」の特許を請求している訳です。「多機能ペン」について特許が欲しい、という訳です。

特許請求の範囲は、「多機能ペン」であり、どのような多機能ペンであるのかについて、説明書きが付いているのです。

その説明書きの一部又は全部が、従来と異なったものであり、且つ従来技術から容易に発明できる程度のものでないなら、特許を受けることができます。

どのような多機能ペンなのでしょうか。以下でみていきます。基本的には請求項1の内容について述べ、その後、請求項2以降の各請求項の内容について述べます。

 


請求項の全体の骨格を確認する

 特許請求の範囲には、様々な記載振りがありますが、代表的なものに、次のものがあります。
 【a】(・・・であって、)○○と、××と、△△と を備えたことを特徴とする・・・。
 【b】・・・において、○○と、××と、△△と を備えたことを特徴とする・・・。
 【c】○○に××が設けられ、その××に△△が設けられ、△△が…された ことを特徴とする・・・。

【a】及び【b】では、請求項末尾の名詞(事例では「多機能ペン」)の構成要素が列挙されるのに対し、【c】では、請求項末尾の名詞(事例では「多機能ペン」)の説明書きが記載されます。

【a】において、「・・・であって」の記載がない場合もあります。

【c】の説明書きの記載方法は、特に決まりはありませんから、上記の例に限りません。たとえば、「○○に××が固定され、その××は△△を備え、その△△は…の形状である」「○○に××が形成されると共に△△が形成されている」など、出願人(請求項作成者)にとって、権利範囲が広く、発明が明確で、書きやすい記載振りでまとめられます。

事例の場合、上記【a】の構成となっています。

請求項1では、「多機能ペンであって、」と前置きした後、「…本体(11)と、…マーカーペン用ペン先(13)と、…キャップ(21)と、…スタイラスペン用ペン先(22)と、を備えた」多機能ペンである旨、説明されています。

つまり、前置きにおいて、多機能ペンの概略を説明した後、その多機能ペンが、「本体(11)」「マーカーペン用ペン先(13)」「キャップ(21)」「スタイラスペン用ペン先(22)」の各要素を備えて構成される旨、記載されています。

そして、各要素には、それぞれどのような要素なのか、修飾語が付いている訳です。つまり、「本体(11)」ならどのような本体なのか、「マーカーペン用ペン先(13)」ならどのようなマーカペン用ペン先なのかなど、他の要素も同様に説明されています。

 


前置き部分を確認する

「媒体に対する筆記具及び位置座標入力具として使用される多機能ペンであって、」とあります。
ホワイトボードなどの媒体に対する筆記具及び位置座標入力具として使用される多機能ペンであることが説明されています。

ちなみに、前述したように、【a】「…であって」と似た感じで、【b】「…において」と記載する請求項もあります。
「…において」と記載する場合、ここで記載した構成が従来公知かも、という印象が残りますが、「…であって」と記載する場合、ここで記載した構成が従来公知とは限らない印象を残せます。

事例では、(出願時の)出願人の認識として、「媒体に対する筆記具及び位置座標入力具として使用される多機能ペン」は従来なかったとして、「…であって」とまとめたと思われます。

仮に、「媒体に対する筆記具及び位置座標入力具として使用される多機能ペン」が従来公知(出願前に知られている)なら、「…において」としておいて、その後に発明の特徴部(従来技術と異なる部分)が記載されます。従来公知の箇所と、発明の特徴部とを分けることで、発明の特徴部を際立たせることができます。但し、「…において」と「…であって」とは、いずれを採用しても違和感のない場合もあると思います。

 


各要素を確認する

まずは、本体(11)です。
「内部にインクが充填された本体(11)」とあります。
本体(11)の修飾語として「内部にインクが充填された」と記載されています。
つまり、本体(11)は、「内部にインクが充填された」構成です。

以下、同様に各構成をみていきます。
「この本体(11)に取り付けられて前記インクを外部に導出するマーカーペン用ペン先(13)」とありますから、マーカペン用ペン先(13)は、「本体(11)に取り付けられて前記インクを外部に導出する」構成です。

「前記マーカーペン用ペン先(13)を覆うように前記本体(11)に着脱可能に装着されるキャップ(21)」とありますから、キャップ(21)は、「前記マーカーペン用ペン先(13)を覆うように前記本体(11)に着脱可能に装着される」構成です。

「前記キャップ(21)に突設されたスタイラスペン用ペン先(22)」とありますから、スタイラスペン用ペン先(22)は、「前記キャップ(21)に突設された」構成です。

 


請求項1の権利範囲を確認する

請求項1を再度書くと、次のとおりです。

「媒体に対する筆記具及び位置座標入力具として使用される多機能ペンであって、
 内部にインクが充填された本体と、
 この本体に取り付けられて前記インクを外部に導出するマーカーペン用ペン先と、
 前記マーカーペン用ペン先を覆うように前記本体に着脱可能に装着されるキャップと、
 前記キャップに突設されたスタイラスペン用ペン先と、
 を備えたことを特徴とする多機能ペン。」

このような構成の多機能ペンについて、出願人は特許が欲しい、と請求している訳です。特許庁は、このような構成の多機能ペンが従来(出願前)なかったのか、従来なかったとしても従来技術から容易に考えられる改良改変でないか、あるいは最先の出願であるか、などを審査します。審査をパスして特許になれば、特許請求の範囲は、権利範囲を示すことになります。

実際、どのような権利範囲でしょうか。具体的にみていきます。

請求項1では、【A】媒体に対する筆記具及び位置座標入力具として使用される多機能ペンであって、次の各要素を備えるものが権利範囲となります。
【B】内部にインクが充填された本体
【C】この本体に取り付けられて前記インクを外部に導出するマーカーペン用ペン先
【D】前記マーカーペン用ペン先を覆うように前記本体に着脱可能に装着されるキャップ
【E】前記キャップに突設されたスタイラスペン用ペン先

これら【A】~【E】の構成を全て具備する限り、さらに他の構成を備えていても、権利範囲に含まれます。

逆に、これら【A】~【E】の内、いずれか一以上の構成が欠けたものは、権利範囲外です。

 

前記【A】~【E】の各構成について、以下のようにみていきます。

【A】 まず「媒体に対する筆記具及び位置座標入力具として使用される多機能ペン」についてです。
 筆記具及び位置座標入力具として使用されるのであれば、さらに他の機能(たとえば懐中電灯になるライト)が付いていても、権利範囲に含まれます。
 一方、筆記具及び位置座標入力具として使用される必要がありますから、当然ながら、筆記具としてのみ使用されるペンは、権利範囲外であり、位置座標入力具としてのみ使用されるペンも、権利範囲外です。

【B】 次に、「内部にインクが充填された本体」についてです。
 マーカーペンの本体、軸部のことです。
 この軸部の断面は、円形に限るでしょうか。そのようなことはありません。軸の断面は、円形でも、四角形でも、その他の形状でも、権利範囲に含まれます。
 また、インクの色は、黒に限るでしょうか。そのようなことはありません。インクの色は、黒でも、赤でも、青でも、その他の色でも、権利範囲に含まれます。
 一方、「内部にインクが充填された本体」ですから、鉛筆の場合、仮に鉛筆の先端部にキャップを着脱可能に設けるにしても、原則として、権利範囲外でしょう。

【C】 次に、「この本体に取り付けられて前記インクを外部に導出するマーカーペン用ペン先」についてです。
 本体にはマーカーペン用ペン先が付いていて、全体としてマーカーペンが構成されます。
 マーカーペン用ペン先の素材、形状、太さなど、いずれも特に限定はありませんから、いずれの素材、形状、太さでも権利範囲に含まれます。
 また、本体に対するマーカーペン用ペン先の設置位置も特に限定がありませんから、本体の軸方向にマーカーペン用ペン先が突出している必要もなく、たとえば本体の側面からマーカ―ペン用ペン先が突出していても、権利範囲に含まれます。
 さらに、本体に対しマーカーペン用ペン先が着脱可能になっていても、あるいは着脱不能に固定されていても、いずれも権利範囲に含まれます。
 一方、本体内のインクを外部へ導出することが要件ですから、マーカーペン用ペン先がなく、単なる軸部(インクタンク)だけならば、権利範囲外です。

【D】 次に、「前記マーカーペン用ペン先を覆うように前記本体に着脱可能に装着されるキャップ」についてです。
 ここでいうキャップは、「前記マーカーペン用ペン先を覆うように前記本体に着脱可能に装着される」キャップです。
 キャップは、マーカーペン用ペン先を覆う限り、権利範囲に含まれます。つまり、キャップは、マーカーペン用ペン先のみを覆う必要はなく、さらに他の箇所を覆う構成であっても構いません。
 キャップは、本体に着脱可能に装着される限り、本体にネジで着脱されるか、単にはめ込みで着脱されるかは問いません。

【E】次に、「前記キャップに突設されたスタイラスペン用ペン先」についてです。
 スタイラスペン用ペン先は、キャップに突設されていれば、その設置箇所は問いません。
 一方、スタイラスペン用ペン先は、キャップに突設されていなければならず、本体側に設けられているのであれば、原則として権利範囲外となります。

 


特許請求の範囲の書き方

前記【A】~【E】の権利解釈を前提にすると、特許請求の範囲(特に請求項1)を作成する際、「あってもなくてもよい事項」を記載してはいけません。たとえば、次のような限定をしてはなりません。

前記【A】に関連して、多機能ペンにさらに懐中電灯機能を持たせてもよい、言い換えればライトは必須ではないならば、請求項1において、筆記具、位置座標入力具及びライトとして使用される旨、限定してはなりません。ライト機能を持たせてもよい旨を限定したいのであれば、請求項2以下で行います。

前記【B】に関連して、実際に製造販売する製品のマーカーペンのインクが黒色のみであったとしても、本体内部に黒色のインクが充填される旨まで限定することは避けます。黒色まで限定して権利化すると、原則として、青色や赤色のインクで製造販売した他社製品を止めることができません。黒色インクで特許を取得すると、競合他社はその特許の範囲を避けて、青色インクを使用するかもしれません。
 同様に、本体(軸部)の断面形状も、特に問わないのであれば、仮に実際の製品が円形であっても、円形と限定するのは避けます。

前記【C】に関連して、実際に製造販売する製品のマーカーペンのペン先が、フェルト製であり、先端部が先細りになっているとしても、そこまでの構成を請求項1に記載する必要は通常ありません。仮に、マーカーペン用ペン先の素材や形状まで限定すれば、その限定したペン先を備えるもののみが権利範囲となり、素材などを変えられると権利範囲から外れることになります。

前記【D】に関連して、実際に製造販売する製品のキャップが本体にネジで着脱されるとしても、そこまでの構成を請求項1に記載する必要は通常ありません。仮に、キャップが本体にねじ止めされる旨まで限定すると、原則として、単にはめ込みで着脱される構成は権利範囲外となります。

前記【E】に関連して、前述したとおり、スタイラスペンの位置や動きの検出方法には感圧式と電磁誘導式がありますが、いずれも含めたいのであれば、その点を限定する必要はありません。詳細は後述しますが、事例では、請求項2,3で限定しています。
 請求項1において、感圧式又は電磁誘導式の検出を行う旨限定することも考えられますが、現在又は将来において、仮に他の検出方法があれば、それが権利範囲外となりますから、そのようなおそれがある場合には、限定しないのが無難です。
 一方、いずれの検出方法かを明確化しておきたい場合や、各検出方法で格別の作用効果を奏する場合には、請求項2以降で限定しておくのが好ましいです。

このように、特許請求の範囲(特に請求項1)には、全く不要な事項を記載してはなりません。できるだけ少ない要素(記載)でまとめる方が、権利範囲が広くなることになります。一方で、構成要素を削減し過ぎると、従来技術を含んだり、発明として完成しなかったり、発明が不明確になったりします。たとえば、請求項1において、「キャップに突設されたスタイラスペン用ペン先」の要件を外せば、単なるマーカーペン、従来技術そのものとなり、特許を受けることはできません。発明を特定するために必要な事項は、過不足なく記載しなければなりません。

 なお、「Xと、Yと、Zとを備えたことを特徴とする・・・」と似たものに、「Xと、Yと、Zとからなることを特徴とする・・・」という記載振りの請求項もあります。前者(「備えた」を用いる場合)では、(X,Y,Zを備える限り)X,Y,Z以外の構成要素があっても権利範囲に含めることができる一方、後者(「からなる」を用いる場合)では、X,Y,Zでのみ構成される(のが特徴である)という印象が残ります。通常、「備えた」(又は「備える」)を用いる方がお得であるが、発明によっては、X,Y,Zでのみ構成される点が特徴であることもあり、事案に応じて使い分けるのがよいと思われます。

 


従属項について

ある請求項にそれ以前に記載した他の請求項を引用して「請求項○に記載の…」の文言がある請求項を「従属項(従属クレーム)」といい、そのような引用のない請求項を「独立項(独立クレーム)」といいます。なお、独立項を「独立形式請求項」、従属項を「引用形式請求項」ということもあります。

事例では、請求項1が独立項、請求項2及び請求項3が従属項です。請求項2及び請求項3は、請求項1を引用する従属項であり、請求項1は、被従属項です。

従属項(請求項2,3)は、それが引用する被従属項(請求項1)の構成要素を備えた上で、さらに当該従属項(請求項2,3)に記載の構成要素を備えるものです。

事例において、請求項1を引用する請求項2や請求項3を、請求項1を引用しない請求項に書き換えることもできます。つまり、請求項2や請求項3において、請求項1を項番で引用する代わりに、請求項1の内容を記載して、書き下しができます。具体的には、次のとおりです。

「【請求項2】 前記スタイラスペン用ペン先は、前記媒体側に設けられた感圧センサを加圧することにより位置座標を入力することを特徴とする請求項1に記載の多機能ペン。」は、次のものと等価です。
「【請求項2】 媒体に対する筆記具及び位置座標入力具として使用される多機能ペンであって、内部にインクが充填された本体と、この本体に取り付けられて前記インクを外部に導出するマーカーペン用ペン先と、前記マーカーペン用ペン先を覆うように前記本体に着脱可能に装着されるキャップと、前記キャップに突設されたスタイラスペン用ペン先と、を備え、前記スタイラスペン用ペン先は、前記媒体側に設けられた感圧センサを加圧することにより位置座標を入力することを特徴とする多機能ペン。」

「【請求項3】 前記スタイラスペン用ペン先は、前記媒体側に設けられた電磁センサとの電磁作用により位置座標を入力することを特徴とする請求項1に記載の多機能ペン。」は、次のものと等価です。
「【請求項3】 媒体に対する筆記具及び位置座標入力具として使用される多機能ペンであって、内部にインクが充填された本体と、この本体に取り付けられて前記インクを外部に導出するマーカーペン用ペン先と、前記マーカーペン用ペン先を覆うように前記本体に着脱可能に装着されるキャップと、前記キャップに突設されたスタイラスペン用ペン先と、を備え、前記スタイラスペン用ペン先は、前記媒体側に設けられた電磁センサとの電磁作用により位置座標を入力することを特徴とする多機能ペン。」

独立項(請求項1)は、それを引用する従属項(請求項2、請求項3)よりも、権利範囲が広くなります。前述したとおり、特許請求の範囲(請求項)では、構成要素(限定事項)が多いほど権利範囲が狭くなるので、独立項をさらに限定した従属項は、独立項よりも権利範囲が狭くなります。

通常、従属項(請求項2,3)の内容は、独立項(請求項1)に含まれます。事例の場合、請求項2ではスタイラスペンによる入力が感圧式でなされ、請求項3ではスタイラスペンによる入力が電磁誘導式でなされる旨限定されていますが、請求項1ではスタイラスペンによる入力形式に限定はありませんから、請求項1には請求項2,3の内容も権利範囲として含まれることになります。

そうだとすると、請求項2,3は不要とも考えられます。しかしながら、審査において、請求項1に特許性がなくても、それをさらに限定した請求項2又は請求項3ならば特許性がある場合もあり、どのラインで特許可能であるかを見極めるためにも、従属項を作成しておくことは役立ちます。また、請求項1だけでは、スタイラスペンの入力形式として、感圧式や電磁誘導式が含まれるのか不安がある場合、それらを明確化した従属項を立てておけば安心です。

 


参考条文

特許法
(特許出願)
第36条 特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
  一 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
  二 発明者の氏名及び住所又は居所
 2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。
 3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
  一 発明の名称
  二 図面の簡単な説明
  三 発明の詳細な説明
 4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
  一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
  二 その発明に関連する文献公知発明(…)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知っているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。
 5 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。
 6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
  一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
  二 特許を受けようとする発明が明確であること。
  三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
  四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。
 7 第二項の要約書には、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載しなければならない。

 

(特許発明の技術的範囲)
第70条 特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。
 2 前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。
 3 前二項の場合においては、願書に添付した要約書の記載を考慮してはならない。

 

特許法施行規則
(特許請求の範囲の記載)
第24条の3 特許法第36条第6項第4号の経済産業省令で定めるところによる特許請求の範囲の記載は、次の各号に定めるとおりとする。
  一 請求項ごとに行を改め、一の番号を付して記載しなければならない。
  二 請求項に付す番号は、記載する順序により連続番号としなければならない。
  三 請求項の記載における他の請求項の記載の引用は、その請求項に付した番号によりしなければならない。
  四 他の請求項の記載を引用して請求項を記載するときは、その請求項は、引用する請求項より前に記載してはならない。
  五 他の二以上の請求項の記載を択一的に引用して請求項を記載するときは、引用する請求項は、他の二以上の請求項の記載を択一的に引用してはならない。

 

特許法施行規則
様式29の2〔備考〕
 7 文章は口語体とし、技術的に正確かつ簡明に特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを出願当初から記載する。この場合において、他の文献を引用して特許請求の範囲の記載に代えてはならない。
 8 技術用語は、学術用語を用いる。
 9 用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ、明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用する。ただし、特定の意味で使用しようとする場合において、その意味を定義して使用するときは、この限りでない。
 10 登録商標は、当該登録商標を使用しなければ当該物を表示することができない場合に限り使用し、この場合は、登録商標である旨を記載する。
 11 微生物、外国名の物質等の日本語ではその用語の有する意味を十分表現することができない技術用語等は、その日本名の次に括弧をしてその原語を記載する。
 12 微生物の寄託について付された受託番号は、その微生物名の次に記載する。
 13 化学物質を記載する場合において、物質名だけではその化学構造を直ちに理解することが困難なときは、物質名に加え、化学構造を理解することができるような化学式をなるべく記載する。
 14 「特許請求の範囲」は、第24条の3並びに特許法第36条第5項及び第6項に規定するところに従い、次の要領で記載する。
  イ 「特許請求の範囲」の記載と「明細書」の記載とは矛盾してはならず、字句は統一して使用しなければならない。
  ロ 請求項の記載の内容を理解するため必要があるときは、当該願書に添付した図面において使用した符号を括弧をして用いる。
  ハ 他の請求項を引用して請求項を記載するときは、その請求項は、原則として引用する請求項に続けて記載する。
  ニ 他の2以上の請求項の記載を引用して請求項を記載するときは、原則としてこれらを択一的に引用し、かつ、これらに同一の技術的限定を付して記載する。
  ホ 請求項に付す番号は、「【請求項1】」、「【請求項2】」のように記載する。ただし、他の請求項の記載を引用して請求項を記載するときは、引用される請求項に付した番号を「請求項1」、「請求項2」のように記載する。
 16 化学式等を特許請求の範囲中に記載しようとする場合には、化学式を記載しようとするときは化学式の記載の前に「【化1】」、「【化2】」のように、数式を記載しようとするときは数式の記載の前に「【数1】」、「【数2】」のように、表を記載しようとするときは表の記載の前に「【表1】」、「【表2】」のように記載する順序により連続番号を付して記載する。化学式等は、横170mm、縦255mmを超えて記載してはならず、1の番号を付した化学式等を複数ページに記載してはならない。

 


関連情報

 


(作成2019.05.01、最終更新2022.03.27)
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