はじめに
- 本ページの解説動画:国際出願の「請求の範囲」の書き方【動画】
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特許に関する国際出願
特許協力条約(PCT)に基づく国際出願は、国際出願日が認められると、国際出願日から各指定国における正規の国内出願の効果を有するものとし、国際出願日は、各指定国における実際の出願日とみなされます(PCT11条(3))。
そのため、一の国際出願を行うだけで、各指定国において出願したのと同様の効果を得ることができます。
日本国特許庁を受理官庁として国際出願を行う場合については、国際出願法(特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律)に規定されています。
ここでは、国際出願法に基づく国際出願の「請求の範囲」の書き方について、条文や規則を確認してみます。
日本の国内出願に基づき優先権を主張してPCT国際出願をする場合でも、予めこれら規定に沿って(あるいはこれら規定を考慮して)国内出願しておけば、容易に、PCT国際出願をすることができます。
なお、国内出願の「特許請求の範囲」を、国際出願では「請求の範囲(CLAIMS)」といいます。
おおもとの特許協力条約やその規則を確認されたい場合には、特許協力条約に基づく国際出願の「請求の範囲」をご覧ください。
以下、まずは、PCT国際出願の「請求の範囲」に関する条文や規則を確認した後、日本の国内出願の場合と比較して、特に異なる点について、確認してみます。
「国際出願」と「国際特許出願」との違いについては、国際出願、国際特許出願、外国語特許出願、日本語特許出願とは?をご覧ください。
国際出願の「請求の範囲」に関する条文・規則
特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律
(願書等)
第3条 国際出願をしようとする者は、日本語又は経済産業省令で定める外国語で作成した願書、明細書、請求の範囲、必要な図面及び要約書を特許庁長官に提出しなければならない。
- 特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律施行規則 第12条
法第3条第1項の経済産業省令で定める外国語は、英語とする。
2 省略
3 明細書、請求の範囲、図面及び要約書に記載すべき事項その他これらの書類に関し必要な事項は、経済産業省令で定める。
特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律施行規則
(請求の範囲の記載事項等)
第18条 請求の範囲には、保護が求められている事項を発明の技術的特徴により明確かつ簡潔に記載しなければならない。この場合において、請求の範囲は、明細書により十分に裏付けされていなければならない。
2 請求の範囲は、様式第9又は様式第9の2により作成しなければならない。
特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律施行規則 様式第9備考
1 省略
2 請求の範囲の数は、請求の範囲に記載される発明の性質を考慮して妥当な数とする。
3 請求の範囲の数が2以上のときは、記載する順序により請求の範囲にアラビア数字で連続番号を付する。
4 1又は2以上の他の請求の範囲のすべての技術的特徴を含む請求の範囲(以下「従属請求の範囲」という。)の記載は、他の請求の範囲を引用するとともに追加の技術的特徴を記載する。
5 2以上の他の請求の範囲を引用する従属請求の範囲(以下「多数従属請求の範囲」という。)は、原則として引用しようとする請求の範囲を択一的に引用して記載する。
6 多数従属請求の範囲においては、原則として他の多数従属請求の範囲を引用して記載してはならない。
7 備考5又は6の原則によらない記載が指定国の国内法令の要件を満たしている場合、備考5又は6の原則によらないことは当該指定国においていかなる影響も及ぼさない。
8 請求の範囲における発明の技術的特徴の記載は、原則として明細書又は図面を引用して記載してはならず、特に「明細書の………の箇所に記載したように」又は「図面の………の図に示したように」のような記載をしてはならない。
9 請求の範囲に記載されている技術的特徴であつて図面に記載されているものは、その図面の引用符号をかつこを付して引用することが望ましい。
10 同一の請求の範囲を引用する従属請求の範囲は、原則として引用に係る請求の範囲に続けて記載する。
11 その他は、…様式第8の備考1から6まで及び10と同様とする。…
同 様式第8備考
1 省略
2 計量単位は、メートル法により記載する。
3 技術用語は、学術用語を用いる。
4 用語は、国際出願全体を通じ統一して使用されているものを用いる。
5 …化学式又は数式を記載することができる。
6 …表を使用することができる。
10 …法又はこの省令に規定する事項以外のいかなる事項も記載してはならない。
従属請求の範囲(従属クレーム)とは?
従属請求の範囲(従属項・従属クレーム)とは、1又は2以上の他の請求の範囲(請求項・クレーム)のすべての技術的特徴を含む請求の範囲(請求項・クレーム)であって、他の請求の範囲(請求項・クレーム)を引用するとともに追加の技術的特徴を記載したものをいいます。
従属請求の範囲(従属項・従属クレーム)については、国内出願についての解説ですが、独立項と従属項をご参照ください。
多数従属請求の範囲(多数項従属クレーム)とは?
いわゆる“マルチクレーム”のことです。
多数従属請求の範囲(マルチクレーム)とは、2以上の他の請求の範囲(請求項・クレーム)を引用する従属請求の範囲(従属項・従属クレーム)をいいます。
マルチマルチクレームとは?
いわゆる“マルチのマルチ”クレームのことです。
マルチマルチクレーム(マルチのマルチ)とは、マルチクレームを引用するマルチクレームをいいます。
マルチクレームやマルチマルチクレームについては、後ほど、具体例を示します。
PCT国際出願では、多数従属請求の範囲(マルチクレーム)においては、原則として他の多数従属請求の範囲(マルチクレーム)を引用して記載してはならない、とのことです。つまり、マルチマルチクレームは、原則として記載できません。
但し、そのような原則によらない記載が指定国の国内法令の要件を満たしている場合には、当該原則によらないことは当該指定国においていかなる影響も及ぼしません。たとえば、日本では、マルチマルチクレームは許容されていますから、指定国日本に関する限り、影響はありません。(2022年4月1日より日本でもマルチマルチクレームは制限) 一方、外国では許容されていない国もありますから、PCT国際出願では、「多数従属請求の範囲においては、原則として他の多数従属請求の範囲を引用して記載してはならない」と規定されている訳です。
もちろん、PCT規則上も、原則として、「多数従属請求の範囲は、他の多数従属請求の範囲のための基礎として用いてはならない」とされています(PCT規則6.4(a))。詳しくは、特許協力条約に基づく国際出願の「請求の範囲」をご覧ください。
なお、仮に国際出願時にはマルチマルチクレームであっても、各国への移行時の他、場合により移行後の審査段階でも、請求の範囲等の補正が可能です。つまり、仮にマルチマルチクレームを含んで国際出願しても、必要なら、各指定国において、その解消が可能です。
そのため、「多数従属請求の範囲においては、原則として他の多数従属請求の範囲を引用して記載してはならない」との“原則”に従わず国際出願しておいて、その後の国内段階で必要に応じて処理する方法も考えられます。極端な話、マルチマルチクレームを特段の不利益なく認める国だけへの移行を考えるなら、通常の国内出願と変わるところはないことになります。
具体例(マルチクレーム・マルチマルチクレーム)
たとえば、「請求の範囲」が、次のようなものであったとします。
[請求項1] 軸材の中心線に沿って芯が設けられた ことを特徴とする鉛筆。
[請求項2] 前記軸材が断面六角形である ことを特徴とする請求項1に記載の鉛筆。
[請求項3] 前記軸材が断面楕円形である ことを特徴とする請求項1に記載の鉛筆。
[請求項4] 前記軸材の一端部に消しゴムが設けられた ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛筆。
[請求項5] 前記軸材が合成樹脂製である ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛筆。
この場合、請求項4(および請求項5)がマルチクレームとなっており、請求項5がマルチマルチクレームとなっています。つまり、請求項5は、マルチクレームの請求項4を引用するマルチクレームですから、マルチのマルチという訳です。
PCT国際出願では、マルチのマルチである請求項5は原則不可、ということになります。
請求項4および/または請求項5について、請求項の従属先を絞ったり、従属先ごとの請求項に分解したりすることが考えられます。
関連情報
- 特許協力条約(PCT)に基づく国際出願の流れ
- 特許協力条約に基づく国際出願の「請求の範囲」
- 特許法第184条の3~第184条の20:特許協力条約に基づく国際出願に係る特例(条文解読)
- 特許請求の範囲について
- 特許請求の範囲の読み方/書き方
- 特許請求の範囲の書き方(実践編)
- 独立項と従属項
- 特許請求の範囲の明確性
- 特許請求の範囲の具体例
- ソフトウェア関連発明・ビジネスモデル特許の特許請求の範囲
- 特許請求の範囲と発明の実施
(作成2020.06.26、最終更新2022.03.01)
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