はじめに
対比する二つの商標の類否(類似するか否か)は、比較する両商標がその「外観(見た目)」、「称呼(読み方)」又は「観念(意味内容)」等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、同一又は類似の商品又は役務(サービス)に使用した場合に、出所混同のおそれがあるか否かにより判断します(商標の類否(類似/非類似))。
商標類否判断支援システムは、商標の「称呼」における類否判断(読み方において類似するか否かの判断)のための情報提供を行います。
本システムの最大の特徴は、なぜ類似の傾向があるのか?、あるいは、なぜ非類似の傾向なのか?、その“理由”が示される、という点にあります。
商標類否判断支援システムは、下記フローチャートに基づき処理します。
メイン処理と、そのサブルーチンである第1類否判断処理~第4類否判断処理の他、隣接2音入替判断処理から構成されます。
この手順は、単に本システムの処理手順というだけでなく、商標の称呼の類否判断の手順ということもできると思います。
以下、順に各処理について述べます。
なお、特許庁『商標審査基準』を参考に構築しておりますが、特許庁の審査基準そのものではありません。商標類否判断支援システムと特許庁審査基準との関係は、「商標類否判断支援システムの判定基準と特許庁の商標審査基準との関係」をご覧ください。
動画解説もおすすめ!
- 本ページの解説動画:商標類否判断手順(商標類否判断支援システムのアルゴリズム)【動画】
- 具体例を入れつつ、類否判断手順を解説しています。
- 2音相違の場合に、なぜ第2類否判断処理や第4類否判断処理を行わないのかについては、動画をご覧ください。
メイン処理
- 2つの称呼の入力
- 各称呼の音数、両称呼間の音数差、両称呼間の互いに相違する音(相違音)のペア、相違音のペアの数(相違数)を求める
- 音数差と相違数にて場合分けして処理
◆同数音かつ1音相違(音数差0&相違数1)の場合:第1類否判断処理と第2類否判断処理を実行
(各処理のいずれかで、判定基準に合致するものがあると、称呼類似の傾向(一要素)となる。)
◆1音差かつ1音相違(音数差1&相違数1)の場合:第3類否判断処理と第4類否判断処理を実行
(各処理のいずれかで、判定基準に合致するものがあると、称呼類似の傾向(一要素)となる。)
◆2音相違(相違数2)の場合:各相違部について第1類否判断処理と第3類否判断処理を実行する他、隣接2音入替判断処理を実行
(各相違部双方について、各処理のいずれかで、判定基準に合致するものがあると、称呼類似の傾向(一要素)となる。また、隣接2音入替判断処理の判定基準に合致すれば、称呼類似の傾向(一要素)となる。)
◆3音以上相違の場合:いずれの処理も実行しない
(相違数の多さは、非類似の傾向(一要素)となる。) - 結果の出力
同数音かつ1音相違(音数差0&相違数1)の例
- 「ダイラマックス」と「ダイナマックス」
- 「コロネート」と「コロネット」
- 「シャボネット」と「サボネット」
1音差かつ1音相違(音数差1&相違数1)の例
- 「ヤマセイ」と「ヤマセ」
2音相違(相違数2)の例
- 「コレクシット」と「コレスキット」
- 「フレーゲン」と「フリゲン」
音数について
- 仮名文字1字(ア、イ、ウ等)で1音
- 拗音(キャ、シュ、ビョ等)は2文字で1音
- 長音(ー)、促音(ッ)、撥音(ン)は、それぞれ1音
第1類否判断処理
母音を共通とするか?
- ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が母音を共通にするか。
- 50音図の同段に属するということ。
- 【例】「スチッパー」と「スキッパー」、「バンコシン」と「バンコミン」、「ミギオン」と「ミチオン」、「ダイラマックス」と「ダイナマックス」、「セレニティ」と「セレリティ」
子音を共通とするか?
- ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が50音図の同行に属するか。
- 【例】「アスパ」と「アスペ」、「アトミン」と「アタミン」、「バルケン」と「バルカン」、「プリロセッティ」と「プレロセッティ」、「ビスカリン」と「ビスコリン」
清音、濁音、半濁音の差か?
- ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が清音、濁音、半濁音の差にすぎないか。
- カ、サ、タ、ハ行音と、ガ、ザ、ダ、バ行音と、パ行音の違いということ。
- 【例】「ヘトロン」と「ペトロン」、「クレカ」と「グレカ」、「サンシール」と「サンジール」、「ビュープレックス」と「ビューフレックス」、「バーテラックス」と「バーデラックス」
弱音同士か?
- 相違する1音がともに弱音であるか。
- 弱音とは、イ、ウ、ム、ン、フ、ス等をいう。
- 【例】「ダンネル」と「ダイネル」
長音と促音の差か?
- 相違する1音が長音と促音の差にすぎないか。
- 長音とはーをいう。
- 促音とはッをいう。
- 【例】「コロネート」と「コロネット」、「アドポーク」と「アドポック」
長音と弱音の差か?
- 相違する1音が長音と弱音の差にすぎないか。
- 長音とはーをいう。
- 弱音とはイ、ウ、ム、ン、フ、ス等をいう。
- 【例】「イースタパック」と「インスタパック」
第2類否判断処理
比較的長い称呼で1音だけ異なるか?
- 同数音からなる比較的長い称呼で1音だけ異なるか。
- 比較的長い称呼とは、ここでは6音以上とする。
- 【例】「サイバトロン」と「サイモトロン」、「パラビタオミン」と「パラビタシミン」
拗音と直音の差か?
- 相違する1音が拗音と直音の差にすぎないか。
- 拗音とは、ャ、ュ、ョの付いた音をいう。
- 直音とは、拗音と促音(ッ)以外の音をいう。
- 【例】「シャボネット」と「サボネット」
母音が近似するか?、子音が近似するか?
- 相違する1音の母音又は子音が近似するか。
- 母音が近似とは、ここでは、イ-エ-ア-オ-ウの各隣接音とする。
- 子音が近似とは、調音の位置、方法において近似することをいい、子音表において同一又は近接する調音位置、方法にある場合をいう。ここでは、後述の子音間の類否表によって求める。
- 【例】「サリージェ」と「サリージ」、「セレラック」と「セレノック」
第3類否判断処理
弱音の有無の差か?
- 相違する1音が弱音の有無の差にすぎないか
- 弱音とは、イ、ウ、ム、ン、フ、ス等をいう。
- 【例】「ヤマセイ」と「ヤマセ」、「ビニラ」と「ビニラス」、「ブリテックス」と「ブリステックス」、「デントレックス」と「デントレック」
長音の有無の差か?
- 相違する1音が長音の有無の差にすぎないか。
- 長音とはーをいう。
- 【例】「モガレーマン」と「モガレマン」
促音の有無の差か?
- 相違する1音が促音の有無の差にすぎないか。
- 促音とはッをいう。
- 【例】「コレクシット」と「コレクシト」
第4類否判断処理
比較的長い称呼で1音だけ多いか?
- 比較的長い称呼で1音だけ多いか。
- 比較的長い称呼とは、ここでは6音以上とする。
- 【例】「ビプレックス」と「ビタプレックス」
隣接2音入替判断処理
隣接する2音の入替えか?
- 隣接する2音が入れ替わっているか。
- 【例】「ホピスタン」と「ホスピタン」
子音間の類否表
- ご参考:商標類否判断のための子音の比較(調音位置、呼気の流れ方、有声・無声の別に基づく子音間の類否関係)
商標類否判断支援システムでは、子音が近似するか否かの判定には、過去の商標審決例に基づき作成した上記「子音間の類否表」を用いています。一方、「商標類否判断のための子音の比較」では、「調音位置」「呼気の流れ方」「有声・無声の別」に基づき、さらに客観的に「なぜ類似なのか」「なぜ非類似なのか」を検討して、子音間の類否関係表を作成しております。そのため、このリンク先に掲載の表も、商標類否判断支援システムと併せてご利用ください。
参考情報(旧フローチャート:商標類否判断システム「知能判」)
メイン処理(旧フローチャート)
第1類否判断処理(旧フローチャート)
第2類否判断処理(旧フローチャート)
第3類否判断処理(旧フローチャート)
第4類否判断処理(旧フローチャート)
関連情報
- 小山特許事務所CGI(商標類否判断支援システム)
- 商標の類否(類似/非類似)
- 商標の類否判断(商標審査基準の読解)
- 商標類否判断のための子音の比較
- 商標類否判断のための音(特許庁審決から)(商標類否判断のための「音」の一覧)
- 商標類否判断支援システムの判定基準と特許庁の商標審査基準との関係
- 商標類否判断支援システムの再開
- 商標類否判断支援システムの構想~出願~試作~公開
(作成2021.01.02、最終更新2022.06.03)
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