豊田佐吉の織機特許

豊田佐吉の代表特許:織機

豊田 佐吉(とよだ さきち)氏による織機の特許について、“解読”してみました。

正確には、特許第1195号公報(pdf)をご確認ください。

豊田佐吉氏は、日本の十大発明家のお一人で、トヨタ紡織、豊田自動織機を設立され、その後のトヨタ自動車を中心としたトヨタグループの創始者です。

なお、以下において、明細書中の青字には、本書末尾に用語解説を入れています。

 


特許第1195号

第25類
出願 明治23年11月11日
特許 明治24年 5月14日
特許年限 5年
静岡県・・・
特許権者 豊田 佐吉

 

明細書

織機

この発明は、一方の手で紐を引いて<サ>を通し、他方の手で<オサ>を進退して織る織機に加える改良に係り、その目的とする所、二つある。第一、紐を引く一手を省いて身体の労を減少すること、第二、梭は筬の進むに従って走通し、その筬の進退を極めて急速にしても決して梭の通行の後になることなく、その他、迅速に組織できるのがよい。

別紙図面において、右の目的を達成させる機構を示す。第1図は、全器の斜視図であり、経糸<タテイト>を掛けた所を示している。第2図は、投梭<トウサ>装置であって全器より外してやや大きく詳細に示している。第3図は、投梭装置に関係する要部を全器より放解して、やや大きく詳細に示している。右諸図において、同じ符号は同じ部分を示すものとする。

台(い)(い)(ろ)(ろ)、立木(は)(は)(に)(に)(ほ)(ほ)をもって本器の構礎とする。立木(に)(に)の上部には、笠木(ぬ)、受木(る)(る)、斜支木(を)(を)を取り付け、受木(る)(る)には投梭装置及び綾取り<アヤトリ>の紐を環繞<カンジョウ>する輾軸<テンジク>(わ)を掛ける。笠木(ぬ)より少し下には、爪持(か)(か)を突出し、<カン>(た)にて固制する。杆(た)には枠(れ)(れ)を固着し、爪持(か)(か)には爪(よ)(よ)を備え、下記に解明するように共に梭を走通させる要具である。

投梭装置は、筬吊木に取り付けた杆(そ)の両端から弾手(つ)(つ)を繋垂する。この弾手(つ)(つ)を引動すべき連動具は、左右とも同物であってその方向を異にするのみだから、いま左か右かその一方の部分について解明すると、弾手(つ)は、継子(ね)、連(な)をもって、曲手(ら二)に連繋する。曲手(ら)は十字形であり、長い一端を(ら二)と定め、やや短い一端を(ら一)と定め、その交組した所の中心をもって導桿(む)に接繋して、常に導桿(む)に提持<テイジ>される。導桿(む)は、筬吊木に固着した軸(う)に挿入されて軸(う)には止め釘(ゐ:旧い)を差す。そして、導桿(む)の一端は枠(れ)に挿入しこれに制導され、進むときは曲手(ら一)を爪(よ)に触れさせて曲手(ら二)を転移して連桿(な)、継子(ね)で弾手(つ)を引く。弾手(つ)の下端は梭函(の)の中にあって、梭の一端を挟んで走らせる。すぐに後退させるときは曲手(ら一)は爪(よ)を上回して通過する。通過すれば、爪(よ)はすぐに下向して元に戻り、また曲手(ら一)の触れる用意をする。

梭函(の)(の)は、梭を迸出<ヘイシュツ>させるように前後及び極端を囲み、底は梭の通行する道と同一体の板で、前に述べる弾手(つ)の連動具を左右共その方向に従って順次相繋ぎ収める。この投梭装置を受木(る)(る)に掛けるには冠木(旧お:旧お)の両端の軸で行い、繋拊(旧く:旧く)(旧く:旧く)を筬引(や)(や)の連桿(ま)(ま)に連繋する。この筬引は投梭装置進退の動揺を助け、筬は筬室(け)を上下して嵌まる。既に上文に記載するように、導桿(む)(む)は枠(れ)(れ)に挿入し、そして筬室(け)の上部をとって進めば、曲手(ら一)(ら一)は爪(よ)(よ)に触れて、右の曲手(ら二)は左に転がし、左の曲手(ら二)は右に転がし、弾手(つ)(つ)を引き、もって梭函(の)の在中の梭を走通させる。このように筬の進みに従って梭を走通する。梭、右にあれば左に走り、左にあれば右に走る。左右の曲手(ら一)(ら一)は同時に爪(よ)(よ)に触れて同時に弾手(つ)(つ)を引くけれども、梭の右の梭函(の)より左の梭函(の)に達する前、既に曲手(ら一)(ら一)は爪(よ)(よ)を外れることで梭は自由に弾手(つ)を押して梭函(の)の両端を衝くことになる。また後退すれば曲手(ら一)(ら一)は爪(よ)(よ)を上回して通過し、通過すれば爪(よ)(よ)はすぐに下向きで元に復し、曲手(ら一)(ら一)の触れる用意をする。故に、その進退を極めて急速にしても決して梭の通行に遅れることなく、その他迅速にして身体は疲労することがない。筬室をとる手を変えるのは随時である。ここで、すべて木製であるが、弾手(つ)(つ)を引動すべき連動具などは鉄製であればなおよい。

立木(は)(は)には、布巻(旧へ:旧へ)及び輾軸<テンジク>(と)を備え、小歯輪<シリン>(ち)と制子(り)で布巻(旧へ:旧へ)の止めを行う。立木(ほ)(ほ)の上部には、糸持木(ふ)の腕木(こ)(こ)を支承<シショウ>し、糸受木(旧え:旧え)を載せる。左には経糸巻(て)の過転を防ぐ円板(あ)に摩擦を加える押木(さ)の一端を支承し、押木(さ)の末端には錘(き)を懸垂する。これら経糸を掛ける構造などは、自分の発明の一部分として示したものではない。

経糸を掛けるには、経糸巻き(て)より糸持木(ふ)を環繞し糸受木(旧え:旧え)に載せ、筬室(け)を上下して筬を嵌め、輾軸(と)の上より布巻(旧へ:旧へ)の下に取りて巻き付け、綾取を筬の前方に置き、上綾取の紐を輾軸(わ)に環繞し、下綾取の紐は踏木(ゆ)(ゆ)に継ぐ。

この織機を使用するには、板(め)に腰を掛け、両足を踏木(ゆ)(ゆ)に置き、筬室(け)の上部を抱えて退する内に一方の足を踏んで梭の通行する口を開け、進めれば梭走通する。直ぐに返して織る退く際、また他の一方の足を踏み、進めれば梭また走通する。このように、両足を交互に踏み、投梭装置を進退して織る。

この発明の精神を変えることなく曲手あるいはその他の部分の形状及び構造を少しばかり変更することができるのは言うを待たない。また種々の形状の織機に付造することができる。故に、私は、上文に示した経糸を掛ける構造のみに付造するに限るのを欲せず、左に私が発明として特許を請求する区域を掲げる。

一 織機中、筬吊木に固着して両端に梭を走通させる弾手(つ)(つ)を垂着した杆(そ)と、
 この杆に垂着されて下端梭函(の)(の)の中にあって梭の一端を挟み走通させる弾手(つ)(つ)と、
 この弾手を引動する連動具、すなわち継子(ね)(ね)と、連桿(な)(な)と、曲手(ら)(ら)と、導桿(む)(む)と、この導桿に挿入して止め釘(ゐ)(ゐ)を差した筬吊木に固着した軸(う)(う)と、導桿(む)(む)の一端を挿入してこれを制導する杆(た)に固着した枠(れ)(れ)と、杆(た)の両端にて固制されて曲手(ら一)(ら一)を触れさせる爪(よ)(よ)を備える爪持(か)(か)と
 の組合せ

 

図面

豊田織機特許1195

上記図面のpdfファイル:豊田特許第1195号図面(メモ付き)

 


用語解説

  • 織機(しょっき)=「経(たて)糸に緯(よこ)糸を組織させて織物を織る機械。手織機(ておりばた)・力(りき)織機などの別がある。はた。おりき。」(電子辞書「広辞苑 第7版」岩波書店)
  • (さ)=「ひ。機織りで、横糸をとおす舟形の道具」(梅棹忠夫・金田一春彦・阪倉篤義・日野原重明 監修『日本語大辞典』講談社、1989年)「杼(ひ)」「シャットル」
  • (おさ)=「機織りの道具。金属または竹の小片を、横長の框(くわ)の中にくしの歯のようにならべたもの。その目を通してたて糸の位置を整え、よこ糸を織りこむためのもの」(前記『日本語大辞典』)
  • 組織(そしき)=「織物で、緯(よこ)糸と経(たて)糸とを組み合わせること」(電子辞書「広辞苑 第7版」岩波書店)
  • 経糸(たていと)=「織物の縦方向の糸」(前記『日本語大辞典』)
  • 環繞(かんじょう)=「まわりを取り巻くこと。囲み巡らすこと。」(電子辞書「大辞林 第3版」三省堂)
  • 提持(ていじ)=「さげてもつもと」(電子辞書「広辞苑 第7版」岩波書店)
  • 迸出(へいしゅつ)=「ほとばしり出ること。ほうしゅつ。」(「デジタル大辞泉」小学館)
  • 歯輪(しりん)=「はぐるま」(「デジタル大辞泉」小学館)
  • (かん)=「てこ。てこぼう。」(前記『日本語大辞典』)ここでは、棒材。
  • (かん)=「さお。木の棒。てこ。てこ棒。」(前記『日本語大辞典』)ここでは、棒材。
  • 綾取り(あやとり)=「多数のたて糸にそれぞれあやを取って1列に並べること。」(JIS繊維用語)
  • (あや)=「糸の乱れを防ぎ、取扱いを便利にするため糸に与える秩序。」(JIS繊維用語)

 


(作成2019.10.14、最終更新2019.10.18)
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