明細書・特許請求の範囲・図面の補正(条文解読)

特許手続の補正(条文解読)の続編です。

「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正」と「不適法な補正がなされた場合の取扱い」について、確認してみます。

なお、本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。最新かつ正確な情報は、特許庁ホームページでご確認ください。

参考文献:特許庁編『工業所有権法逐条解説 第20版』

 


(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正)
第17条の2

特許出願人は、
特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる

ただし、第50条(拒絶理由通知)の規定による通知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をすることができる。

 

  一 第50条(拒絶理由通知)(第159条第2項(拒絶査定不服審判)(第174条第2項(再審)において準用する場合を含む。)及び第163条第2項(前置審査)において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に受けた場合(最初の拒絶理由通知)において、第50条の規定により指定された期間内にするとき。

  • 最初の拒絶理由とは、「原則として、出願人にはじめて指摘する拒絶理由を通知するものをいい、第一回目の拒絶理由通知はもとより、第二回目の拒絶理由であっても、最初の拒絶理由に対して補正がなされなかった請求項等に対して、はじめて通知する拒絶理由を含むものは、最初の拒絶理由である。」(特許庁編『工業所有権法逐条解説 第20版』第17条の2)

 

  二 拒絶理由通知を受けた後第48条の7(先行技術文献情報開示要件違反通知)の規定による通知を受けた場合において、同条の規定により指定された期間内にするとき。

  • 通常、48条の7の通知は、最初の拒絶理由通知前になされると思われ、その場合は最初の拒絶理由通知の応答期間まではいつでも補正できるが、最初の拒絶理由通知の応答期間経過後に通知された場合は本号による。

 

  三 拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知(最後の拒絶理由通知)に係る第50条の規定により指定された期間内にするとき。

  • 最後の拒絶理由とは、「原則として、最初の拒絶理由に対する補正により通知することが必要となった拒絶理由のみを通知するものである。」(特許庁編『工業所有権法逐条解説 第20版』第17条の2)

 

  四 拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき。

 

2 第36条の2第2項の外国語書面出願の出願人が、
誤訳の訂正を目的として、
前項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、
その理由を記載した誤訳訂正書を提出しなければならない。

 

3 第1項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、
誤訳訂正書を提出してする場合を除き、
願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面…外国語書面出願にあつては、…明細書、特許請求の範囲及び図面とみなされた…外国語書面の翻訳文誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては、翻訳文又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面…)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。

  • 新規事項追加禁止(外国語書面出願にあっては翻訳文新規事項追加禁止

 

4 前項(新規事項追加禁止)に規定するもののほか、
第1項各号に掲げる場合において特許請求の範囲について補正をするときは、
その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明」と、「その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明」とが、第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。

  • 発明の特別な技術的特徴を変更する補正(シフト補正)の禁止
  • 拒絶理由が通知された後に発明の内容を大きく変更することは禁止される。
  • 第37条:二以上の発明については、経済産業省令(特許法施行規則 第25条の8)で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。
  • 特許法施行規則 第25条の8:
    特許法第37条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。
    2 前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。
    3 第一項に規定する技術的関係については、二以上の発明が別個の請求項に記載されているか単一の請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらず、その有無を判断するものとする。

 

5 前二項(新規事項追加禁止、シフト補正禁止)に規定するもののほか、
第1項第一号(最初の拒絶理由通知応答期間内の補正)、第三号(最後の拒絶理由通知応答期間内の補正)及び第四号(拒絶査定不服審判請求時の補正)に掲げる場合(同項第一号(最初の拒絶理由通知応答期間内の補正)に掲げる場合にあつては、拒絶理由通知と併せて第50条の2(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)の規定による通知を受けた場合に限る。)において特許請求の範囲についてする補正は
次に掲げる事項を目的とするものに限る。(*既になされた審査結果を有効に活用できる範囲内に限る(目的外補正の禁止)。)

  一 第36条第5項に規定する請求項の削除

  二 特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、「その補正前の当該請求項に記載された発明」と「その補正後の当該請求項に記載される発明」の「産業上の利用分野」及び「解決しようとする課題」が同一であるものに限る。)(*限定的減縮

  三 誤記の訂正

  四 明りようでない記載の釈明拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)

 

6 第126条第7項(独立特許要件)の規定は、前項第二号(限定的減縮)の場合に準用する。

  • 補正後の発明が独立して特許を受けることができるものでなければならない。
  • 第126条:特許権者は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
      一 特許請求の範囲の減縮
      二 誤記又は誤訳の訂正
      三 明瞭でない記載の釈明
      四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。
    2~6 省略
    7 第1項ただし書第一号又は第二号に掲げる事項を目的とする訂正は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない

 


(拒絶の査定)
第49条

審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。

  一 その特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第17条の2第3項(新規事項追加禁止(外国語書面出願にあっては翻訳文新規事項追加禁止))又は第4項(発明の特別な技術的特徴を変更する補正(シフト補正)の禁止)に規定する要件を満たしていないとき。

  二~四 省略

  五 前条(先行技術文献情報開示要件違反通知)の規定による通知をした場合であつて、その特許出願が明細書についての補正又は意見書の提出によつてもなお第36条第4項第二号(先行技術文献情報開示要件)に規定する要件を満たすこととならないとき。

  六 その特許出願が外国語書面出願である場合において、当該特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないとき。(原文新規事項追加禁止

  七 省略

 


(補正の却下)
第53条

第17条の2第1項第一号(最初の拒絶理由通知応答期間内の補正)又は第三号(最後の拒絶理由通知応答期間内の補正)に掲げる場合同項第一号(最初の拒絶理由通知応答期間内の補正)に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて第50条の2(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)の規定による通知をした場合に限る。において、
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第17条の2第3項から第6項まで(新規事項追加禁止シフト補正禁止目的外補正禁止独立特許要件)の規定に違反しているものと
特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、
審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。

2 前項の規定による却下の決定は、文書をもつて行い、かつ、理由を付さなければならない。

3 第1項の規定による却下の決定に対しては、不服を申し立てることができない
ただし、拒絶査定不服審判を請求した場合における審判においては、この限りでない

 


(拒絶査定不服審判における特則)
第159条

第53条(補正の却下)の規定は、拒絶査定不服審判に準用する。

この場合において、第53条第1項中
「第17条の2第1項第一号又は第三号」とあるのは「第17条の2第1項第一号、第三号又は第四号」と、
「補正が」とあるのは「補正(同項第一号又は第三号に掲げる場合にあつては、拒絶査定不服審判の請求前にしたものを除く。)が」と
読み替えるものとする。

  • 本条による読替え後の第53条第1項:
    第17条の2第1項第一号(最初の拒絶理由通知応答期間内の補正)、第三号(最後の拒絶理由通知応答期間内の補正又は第四号拒絶査定不服審判請求時の補正)に掲げる場合同項第一号(最初の拒絶理由通知応答期間内の補正)に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて第50条の2(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)の規定による通知をした場合に限る。において、
    願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正(同項第一号又は第三号に掲げる場合にあつては、拒絶査定不服審判の請求前にしたものを除く。)が第17条の2第3項から第6項まで(新規事項追加禁止シフト補正禁止目的外補正禁止独立特許要件)の規定に違反しているものと
    特許をすべき旨の査定(審決)の謄本の送達前に認められたときは、
    審査官(審判官)は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。
  • 拒絶査定不服審判でも、所定の場合、補正を却下する(準53条)。
  • 拒絶査定不服審判において補正却下の対象となるのは、「拒絶査定不服審判請求時の補正(第17条の2第1項四号)」、「拒絶査定不服審判における最後の拒絶理由通知に対する補正(第17条の2第1項第三号)」、及び「拒絶査定不服審判における拒絶理由通知と併せて50条の2(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)の規定による通知がされた場合における補正(第17条の2第1項第一号)」である。
  • 審査段階でなされた補正が不適法であっても、審査段階で一旦看過された場合には、審判における却下の対象とはしない。必要な場合(新規事項が追加されている場合)、拒絶理由が通知される。

 

2 第50条(拒絶理由の通知)及び第50条の2(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)の規定は、
拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。

この場合において、第50条ただし書中
「第17条の2第1項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)」とあるのは、
「第17条の2第1項第一号(拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限るものとし、拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)、第三号(拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)又は第四号に掲げる場合」
と読み替えるものとする。

  • 本条による読替え後の第50条:
    審査官(審判官)は、拒絶をすべき旨の査定(審決)をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。
    ただし、第17条の2第1項
     第一号(最初の拒絶理由通知応答期間内の補正)(拒絶の理由の通知と併せて次条(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)の規定による通知をした場合に限るものとし、拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)、
     第三号(最後の拒絶理由通知応答期間内の補正)拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)
     又は第四号(拒絶査定不服審判請求時の補正)
    に掲げる場合において、第53条第1項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。
  • 審判において新たな拒絶理由を発見した場合、拒絶審決をする前に、拒絶理由を通知して、出願人に意見書提出の機会を与える。
  • 但し、「拒絶査定不服審判請求時の補正(第17条の2第1項四号)」、「拒絶査定不服審判における最後の拒絶理由通知に対する補正(第17条の2第1項第三号)」、及び「拒絶査定不服審判における拒絶理由通知と併せて50条の2(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)の規定による通知がされた場合における補正(第17条の2第1項第一号)」が、第17条の2第3項から第6項まで(新規事項追加禁止、シフト補正禁止、目的外補正禁止、独立特許要件)の規定に違反するものである場合には、前項で準用する第53条の補正却下の規定を優先して適用する。
  • 審査段階でなされた補正が不適法な場合、審判では補正却下の対象とはせず(第50条ただし書を適用せず)、必要なら、第50条本文に基づき拒絶理由が通知される。

 

3 省略

 


(拒絶査定不服審判における特則)
第164条

審査官は、第162条(前置審査)の規定による審査において特許をすべき旨の査定をするときは、審判の請求に係る拒絶をすべき旨の査定を取り消さなければならない。

  • 第162条(前置審査):特許庁長官は、拒絶査定不服審判の請求があつた場合において、その請求と同時にその請求に係る特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正があつたときは、審査官にその請求を審査させなければならない。
  • 審判請求時に特許請求の範囲等について補正(前置補正:ぜんちほせい)があったときは、審査官による再審査(前置審査:ぜんちしんさ)に付される。前置審査において、拒絶理由が解消されていると判断された場合、「特許査定」が出され、依然として拒絶理由が解消されていないと判断された場合、(下記第3項による「前置報告」の上)審判へ移行する。

 

2 審査官は、前項に規定する場合(前置審査で特許査定する場合)を除き、前条(第163条)第1項において準用する第53条第1項(補正の却下)の規定による却下の決定をしてはならない。

  • 第163条第1項(前置審査):第48条(審査官の除斥)、第53条(補正の却下)及び第54条(訴訟との関係)の規定は、前条(前置審査)の規定による審査に準用する。この場合において、第53条第1項中「第17条の2第1項第一号又は第三号」とあるのは「第17条の2第1項第一号、第三号又は第四号」と、「補正が」とあるのは「補正(同項第一号又は第三号に掲げる場合にあつては、拒絶査定不服審判の請求前にしたものを除く。)が」と読み替えるものとする。
  • 上述した第159条第1項の読替えと同様、審判請求前の補正が不適法であっても、前置審査では却下しない。

 

3 審査官は、第1項に規定する場合(前置審査で特許査定する場合)を除き、当該審判の請求について査定をすることなくその審査の結果を特許庁長官に報告しなければならない。

 


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(作成2020.04.05、最終更新2020.04.29)
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