実用新案登録は特許出願中と類似の状況!?

はじめに

先日、「特許と実用新案の違い」「特許と実用新案、どちらで出願すべき?」について、検討しました。

その際、実用新案登録後も、所定要件下、特許出願への変更や、実用新案登録請求の範囲の減縮等ができる旨、お伝えしました。

そして、これらの選択肢(機会・可能性)を失うまでは、あたかも「特許出願中」と類似の状況といえる、とお伝えしました。

今回は、この点について、さらに詳しく解説します。

なお、本頁末尾の掲載日時点の情報です。

 


前提知識

まず、前提として、特許と実用新案登録について、出願から登録までの典型的な流れを確認しておきます。

実用新案登録は特許出願中と類似の状況(特許と実用新案どちらで出願?)

特許の場合、出願日から1年6月経過後、出願公開(つまり公開公報により出願内容が公開)されます。また、実体審査を受けるには、出願日から3年以内に出願審査請求をしなければならず、これをしないと出願は取り下げたものとみなされます。出願審査請求により実体審査に付されると、多くの場合、新規性(先行技術と同じ)や進歩性(先行技術から容易に考えられる)などの理由から、特許できない旨の拒絶理由通知がきます。これに対して、出願人は、意見書で反論したり、手続補正書で書類を補正(修正)したりします。特に、特許請求の範囲の減縮(つまり権利範囲を狭める)ので特許してください、というような補正がなされます。拒絶理由がないか解消した場合、特許査定がなされ、第1~3年分の特許料を納付することで、設定登録されて特許権が発生し、その内容が登録公報(特許掲載公報)に掲載されます。登録後には、一定要件下、特許請求の範囲の減縮等の訂正も認められています。

実用新案の場合、出願後、実体審査を行わずに無審査で、設定登録されます。登録後には、その内容が登録公報(実用新案掲載公報)に掲載されます。実用新案登録後、所定要件下、実用新案登録に基づく特許出願が可能です。特許出願へ変更せずに実用新案登録を維持する場合、権利の有効性を確認するには、実用新案技術評価の請求が可能です。但し、この請求は必須ではありません。実用新案技術評価では、文献公知による新規性や、公知文献から見た進歩性などについて、評価がなされます。その点で、特許の実体審査に近似した内容となっています。実用新案登録後、所定要件下、実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とする訂正も可能ですが、技術評価や無効審判も含めて、全期間を通じて1回のみ可能です。

 


実用新案登録は特許出願中と類似の状況

出願から3年以内

実用新案登録後でも、通常、出願日から3年以内でしたら、実用新案登録に基づく特許出願が可能です。平たく言えば、特許出願への変更が可能です。特許出願に変更すれば、当然に「特許出願中」という訳です。

そうすると、「特許出願への変更」という選択肢(可能性)を失うまでは、実用新案登録といえども、その状況は「特許出願中」そのものといえます。

特許と実用新案登録との間に、優劣はありません。

なお、出願日から3年以内でも、実用新案登録に基づく特許出願ができなくなる場合があります。詳しくは、「実用新案登録後の留意点」のうち「特許に変更するには・・・実用新案登録に基づく特許出願」をご覧ください。

ところで、特許の場合、出願公開後、補償金請求権の警告は認められていますが、補償金請求権の行使は、特許権の設定登録があった後でなければすることができません。一方、実用新案の場合、出願後早期に登録される(そして必要なら技術評価を請求して警告や権利行使ができる)ので、補償金請求権は必要ありません。仮に、やはり特許の方がよかったと思うなら、前述したとおり、一定要件下、特許出願への変更が可能です。

 

出願から3年経過後

実用新案登録後も、所定要件下、1回に限り、実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とする訂正が可能です。その1回の訂正をどこで使うかですが、おそらく実務上は、技術評価が出た際、または無効審判請求された際です。

実用新案「登録後」の「訂正」は、特許の「登録後」の「訂正」に対応する訳ですが、(技術評価等の)登録要件判断に対する最初の応答という意味では、特許の「出願中」の「補正」に対応するとみることができます。もちろん、「訂正」と「補正」とは要件が多少異なるのですが、特許出願の実体審査における拒絶理由通知に対する対応で権利範囲を減縮するのと同様に、実用新案技術評価(あるいは無効審判請求)の内容を考慮して、権利範囲の減縮等の訂正が可能です。但し、全期間を通じて1回のみ可能です。

そうすると、「実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とする訂正」という選択肢(可能性)を失うまでは、やはり「特許出願中」と類似の状況にあるといえます。

むしろ、特許出願して出願審査請求せずに取下げ扱いになった場合と比較すれば、実用新案の場合には、格安の料金で、依然として権利を維持(他社牽制)しやすいメリットがあるといえます。

 

実用新案登録が特許と比較して不利な点は、特許出願への変更や、請求の範囲の減縮等を目的とする訂正という選択肢(可能性)を失った後です。

この場合は、もはや「特許出願中」と同等ということはできず、特許の場合よりも権利を守りにくくなります。但し、いずれで出願したとしても、出願時の開示の範囲を超える権利請求はできませんから、実用新案で出願するにしても、出願時に上位概念から下位概念まで多様な請求項を展開しておくことで、ある程度の保険をかけることはできます。

 

なお、実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とする訂正については、詳しくは、「実用新案登録後の留意点」のうち「明細書や請求の範囲等を訂正するには・・・減縮は1回のみ」をご覧ください。

 


まとめ

実用新案権は、無審査で登録されたといっても、権利の有効性があれば、一定要件下、特許権と同様に権利行使可能です。

さらに、所定要件下、特許出願への変更も可能ですし、実用新案登録請求の範囲の減縮等もできます。これらの選択肢(可能性)を失うまでは、あたかも「特許出願中」と類似の状況といえます。

そして、特許出願後に直ちに審査請求せずに(つまり権利化を急がずに)「特許出願中」に保留することは一般的です。また、特許出願の場合には、出願後3年以内に出願審査請求という費用面で比較的高いハードルがある(それが原因で出願審査請求しないと取下げ扱いとなる)一方、実用新案の場合は、相当安価に権利を維持できるというメリットがあります。

以前は、登録後には特許出願への変更ができなかったり、請求の範囲の減縮訂正ができなかったりしましたが、いまはこれらが所定要件下許容されますから、以前と比較して、実用新案を選択することもあり得ることと思います。

特許と実用新案の違い」や「特許と実用新案、どちらで出願すべき?」もご参考に、ご予算や目的などに合わせて、出願種別を選択いただければと存じます。

 


関連情報

 


(作成2021.02.27、最終更新2021.04.04)
出典を明示した引用などの著作権法上の例外を除き、無断の複製、改変、転用、転載などを禁止します。
Copyright©2021 Katanobu Koyama. ALL RIGHTS RESERVED.