意匠法第37条の条文解読(意匠権侵害差止請求権)

はじめに

  • 意匠法第37条について、条文を解読してみます。
  • 意匠権の侵害行為の差止請求権についての規定です。
  • 令和元年意匠法改正(差止請求権)をベースに、再度詳細に条文解読した内容となります。
  • 条文等は、本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。
  • 参考文献:特許庁『工業所有権法逐条解説 第21版』

 


(差止請求権)
第37条

意匠権者又は専用実施権者は、
自己の意匠権又は専用実施権を「侵害する者」又は「侵害するおそれがある者」に対し、
その侵害の【停止】又は【予防】を請求することができる

  • 意匠権侵害に対する差止請求権の規定である。侵害の【停止】又は【予防】を請求することができる。
  • 意匠権の侵害とは、正当な権原又は理由なく、業として、他人の登録意匠と同一・類似の意匠を実施することをいう(第23条)。所定の間接侵害行為(直接侵害の予備的行為)も、意匠権を侵害するものとみなされる(第38条)。
  • 民法第709条、意匠法第39条の損害賠償請求権と異なり、侵害者の「故意又は過失」は要件とはならない
    ・民法第709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
    ・意匠法第39条「意匠権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の意匠権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合・・・」
  • 侵害の【停止】を請求とは、現在進行中の侵害を止める請求をいい、侵害の【予防】を請求とは、将来侵害しないことの請求である。つまり、現在又は将来の侵害の差止めを請求できる。そして、次の第2項で、さらに侵害物の【廃棄】や設備の【除却】など、【侵害の予防に必要な行為】を請求できる。

 


2 意匠権者又は専用実施権者は、
前項の規定による請求をするに際し、
 ・侵害の行為を組成した物品」、「建築物」若しくは「画像(その画像を表示する機能を有するプログラム等を含む。第64条及び第65条第一号を除き、以下同じ。)若しくは「画像を記録した記録媒体若しくは内蔵する機器(以下「一般画像記録媒体等」という。)又は「プログラム等(画像を表示する機能を有するプログラム等を除く。以下同じ。)若しくは「プログラム等を記録した記録媒体若しくは記憶した機器(以下「プログラム等記録媒体等」という。)【廃棄】
 ・「侵害の行為に供した設備」の【除却】
 ・その他の【侵害の予防に必要な行為】
を請求することができる。

 

意匠権者又は専用実施権者は、
前項の規定による請求をするに際し、
 ・侵害の行為を組成した物品」、「建築物」若しくは「画像若しくは一般画像記録媒体等」又は「プログラム等若しくはプログラム等記録媒体等」の【廃棄】
 ・「侵害の行為に供した設備」の【除却】
 ・その他の【侵害の予防に必要な行為】
を請求することができる。

 

  • 画像には、「その画像を表示する機能を有するプログラム等」を含む。
  • プログラム等とは、特許法第2条第4項に規定するプログラム等をいう(第2条第2項第三号括弧書き)。つまり、プログラム等とは、プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)その他電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるものをいう。
  • プログラム等には、「画像を表示する機能を有するプログラム等」を含まない。
  • 一般画像記録媒体等とは、画像を「記録した記録媒体」又は「内蔵する機器」をいう。
  • プログラム等記録媒体等とは、プログラム等を「記録した記録媒体」又は「記憶した機器」をいう。

 

  • 廃棄・除却請求権の規定である。侵害物の【廃棄】や設備の【除却】など、【侵害の予防に必要な行為】を請求することができる。
  • 「前項の規定による請求をするに際し」とあることから、第1項の差止請求に付帯して請求する必要がある。第1項で、今やっている侵害を止めること、又は、今後侵害しないことを請求でき、その際、第2項で、侵害品があればその廃棄や、設備があればその除却なども請求できることになる。
  • 「その他の」とあることから、【侵害の予防に必要な行為】には、「侵害の行為を組成した物品等」の【廃棄】や、「侵害の行為に供した設備」の【除却】が含まれる。言い換えれば、侵害物の【廃棄】や設備の【除却】は、【侵害の予防に必要な行為】の一種である。(ご参考:条文の読み方>「その他の」と「その他」)

 

 


3 第14条第1項(秘密意匠)の規定により秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権者又は専用実施権者は、
その意匠に関し第20条第3項各号(意匠公報掲載事項)に掲げる事項を記載した書面であつて特許庁長官の証明を受けたものを提示して警告した後でなければ、
第1項の規定による請求をすることができない。

  • 秘密意匠の権利者は、所定事項を記載した書面であって特許庁長官の証明を受けたものを提示した後でなければ、差止請求権を行使することができない。

 


関連情報

 


(作成2022.05.23、最終更新2022.05.23)
出典を明示した引用などの著作権法上の例外を除き、無断の複製、改変、転用、転載などを禁止します。
Copyright©2022 Katanobu Koyama. ALL RIGHTS RESERVED.