意匠法第29条の条文解読(意匠の先使用権)

目次

 


はじめに

  • 意匠法第29条について、条文を解読してみます。
  • 意匠の先使用権(せんしようけん)についての規定です。他人の意匠登録出願前からの実施者の保護規定です。
  • 意匠登録出願せずに実施又はその準備をしていたが、他人が先に意匠登録出願して意匠登録を受けた場合に、継続して実施することができるか否かの規定となります。
  • 条文等は、本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。
  • 参考文献:特許庁『工業所有権法逐条解説 第22版』

 


意匠の先使用権とは?

意匠の先使用権とは、他人の意匠登録出願前から善意に「出願意匠と同一・類似の意匠」の実施である事業又はその準備をしている者は、その実施又は準備をしている意匠及び事業目的の範囲内において、継続して業として実施することができる権利をいいます。

詳しくは、意匠法第29条に規定されており、以下のとおりです。

なお、特許法の先使用権、商標法の先使用権については、次のページをご覧ください。

 


(先使用による通常実施権)
意匠法第29条

意匠登録出願に係る意匠を知らないで自ら「その意匠若しくはこれに類似する意匠」の創作をし
又は意匠登録出願に係る意匠を知らないで「その意匠若しくはこれに類似する意匠」の創作をした者から知得して

意匠登録出願の際(第9条の2(補正が要旨変更と登録後に認められたときの出願日繰下げ)の規定により、又は第17条の3第1項(補正却下後の新出願)(第50条第1項(拒絶査定不服審判)(第57条第1項(再審)において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)の規定により、その意匠登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの意匠登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現に日本国内において

「その意匠又はこれに類似する意匠」の実施である事業をしている者
又はその事業の準備をしている者は、

その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、

その意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する

 

意匠の先使用権の発生要件

意匠登録出願に係る意匠との関係:次のいずれかに該当すること。

  • 意匠登録出願に係る意匠を知らないで自ら「(出願意匠と)同一・類似の意匠」の創作をしたこと。
  • 意匠登録出願に係る意匠を知らないで「同一・類似の意匠」の創作をした者から知得したこと。

「同一・類似の意匠」の実施である事業との関係:次のいずれかに該当すること。

  • 意匠登録出願の際現に日本国内において「同一・類似の意匠」の実施である事業をしていること。
  • 意匠登録出願の際現に日本国内において「同一・類似の意匠」の実施である事業の準備をしていること。

「意匠登録出願の際」について

  • (第29条括弧書きにある)第9条の2は、補正が要旨変更と登録後に認められたときは、出願日が手続補正書提出時にまで繰り下がる旨を規定する。
  • (第29条括弧書きにある)第17条の3第1項は、審査において補正却下された場合、その決定謄本送達日から3月以内にその補正後の意匠について新たな意匠登録出願をしたときは、その意匠登録出願は手続補正書提出時にしたものとみなす旨を規定する(補正却下後の新出願)。
  • 第29条における「意匠登録出願の際」とは、第9条の2(補正が要旨変更と登録後に認められたときの出願日繰下げ)の規定により、又は第17条の3第1項(補正却下後の新出願)の規定により、その意匠登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、「もとの意匠登録出願の際」又は「手続補正書を提出した際」をいう。いずれかの時点で先使用権の発生要件を満たせば、先使用権が認められることになる。

 

意匠の先使用権の効果

  • 実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、その意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する。
  • つまり、実施又は準備をしている「意匠の範囲内」かつ「事業の目的の範囲内」で、業として意匠を実施することができる

 


関連情報

 


(作成2023.02.20、最終更新2023.02.20)
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