意匠権侵害訴訟における意匠の類否判断基準(意匠が類似するか否かの判断方法)を示した「自走式クレーン事件(東京高裁)」を確認してみます。
この高裁判決では、意匠権に基づき、「製造販売等の差止め」と「4億5117万円の損害賠償」が認められております。
以下、緑の枠内は、東京高裁判決からの抜粋です。緑の枠の下は、弊所による読解内容を示しています。
詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。イ号意匠についても、裁判所のウェブサイトからご確認いただけます(https://www.courts.go.jp)。
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自走式クレーン事件:東京高裁、平成9年(ネ)第404号、平成10年6月18日
意匠権侵害訴訟における意匠の類否判断基準
意匠の類否を判断するに当たっては、
意匠を全体として観察することを要するが、
この場合、
意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、
さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等
を参酌して、
取引者・需要者の「最も注意を惹きやすい部分」を【意匠の要部】として把握し、
登録意匠と相手方意匠が、【意匠の要部】において構成態様を共通にしているか否かを観察する
ことが必要である。
これを前提に、以下、次の順で、本件意匠とイ号意匠との類否を判断する。
- 意匠の類否を判断するに当たっての参酌事項
- 本件意匠の要部
- 本件意匠とイ号意匠との類否
- その他(類否判断の続き)
意匠の類否を判断するに当たっての参酌事項
本件意匠の登録出願前において、20トン以上の中・大型ラフテレーンクレーンについては、走行時のブーム収納状態において、ブームは基端部が下部走行体の後端部上方に位置し、キャビンの天井とほぼ同じ高さにおいてキャビンの窓の側部を横切り、前方にほぼ水平状態にまっすぐ伸び、先端部が下部走行体の先端より大きく前方に突出して下部走行体より大きく離間した位置に配設されたタイプのものが一般的であったことが認められ、
この事実と、自走式クレーンの公知意匠に照らすと、本件意匠のように、収縮状態のブームの基端部がキャビンの側方若干後方位置、エンジンボックスよりも前方斜め上の位置(下部走行体の中央寄りの位置)で、旋回フレームの基台から突設されたブーム支持フレームの上端部に枢着され、ブームが左下がり(前下がり)の状態でキャビンの下方側部を横切り、その先端部が下部走行体の先端より若干突出して下部走行体に近接した位置で終わるように配設した構成は、公知意匠には見られない新規なものと認められること、
自走式クレーンの用途及び使用態様からして、本件意匠の基本的構成を形成する、『キャビン、機器収納ボックス、ブームの各概要的な構成態様』や、『下部走行体と、キャビン、機器収納ボックス、ブーム相互の配設関係』等が、取引者・需要者にとって、購入選択等する場合の重要な要素と考えられることからすると、
本件【意匠の要部】は次の構成に存するものと認めるのが相当である。
本件意匠の要部
1 正面視において下部走行体の略中央の位置にあり、下部走行体の全長の二分の一弱で、背面視において右方(前方)下部が前方に突出した横長変形六角形の高い箱体状のキャビンと、高さがキャビンの略三分の一の前後に長い箱体状の機器収納ボックスとの間に、収縮・収納状態のブームがキャビンの下方側部を前下がりの状態で横切り、正面視において中央部下方の一部が機器収納ボックスに隠れるように配設された、キャビン、機器収納ボックス及びブームの構成態様及び配設関係
2 収縮・収納状態のブームの基端部が、キャビンの側方の若干後方位置で、かつ、下部走行体の後端部上方に塔載されたエンジンボックスの前方斜め上の位置で旋回フレームの基台から突設された正面視略直角三角形状のブーム支持フレームの上端部に枢着され、機器収納ボックスとキャビンの間を前下がりの状態で横切るブームの先端部が下部走行体の先端より若干突出して下部走行体に近接した位置で終わる構成態様並びにブーム支持フレーム、ブームとエンジンボックスを含む下部走行体及びキャビンとの配設関係
1 正面視において下部走行体の略中央の位置にあり、下部走行体の全長の二分の一弱で、背面視において右方(前方)下部が前方に突出した横長変形六角形の高い箱体状のキャビンと、高さがキャビンの略三分の一の前後に長い箱体状の機器収納ボックスとの間に、収縮・収納状態のブームがキャビンの下方側部を前下がりの状態で横切り、正面視において中央部下方の一部が機器収納ボックスに隠れるように配設された、キャビン、機器収納ボックス及びブームの構成態様及び配設関係
2 「収縮・収納状態のブームの基端部が、キャビンの側方の若干後方位置で、かつ、下部走行体の後端部上方に塔載されたエンジンボックスの前方斜め上の位置で旋回フレームの基台から突設された正面視略直角三角形状のブーム支持フレームの上端部に枢着され」、「機器収納ボックスとキャビンの間を前下がりの状態で横切るブームの先端部が下部走行体の先端より若干突出して下部走行体に近接した位置で終わる」構成態様並びにブーム支持フレーム、ブームとエンジンボックスを含む下部走行体及びキャビンとの配設関係
本件意匠とイ号意匠との類否
本件意匠とイ号意匠との間には右2に認定の相違点があるが、いずれも本件意匠の要部に関しない部分についてのもの、あるいは細部についてのものであって、右相違点によって、前記共通の美感を凌駕し、別異の美感をもたらすものとは認められない。
イ号意匠は本件意匠の要部を具備するものであって、両意匠を全体的に観察した場合、看者に共通の美感を与えるものであり、イ号意匠は本件意匠に類似するものと認められる。
本件意匠とイ号意匠との間には相違点があるが、いずれも本件意匠の要部に関しない部分についてのもの、あるいは細部についてのものであって、右相違点によって、前記共通の美感を凌駕し、別異の美感をもたらすものとは認められない。
その他(類否判断の続き)
控訴人は、本件意匠とイ号意匠とは非類似であるとして、…のとおり主張する。
しかしながら、「ウインチの位置及び形状」、ウインチの位置との関連で必要となる「カウンターウエイトの存在及び形状」は、看者の注意を惹く場合があるとしても、本件意匠の要部を形成するものとまでは認められず、本件意匠とイ号意匠におけるウインチ及びカウンターウエイトの有無という相違によって、両意匠の全体的な観察において看者に対して全く異なった印象を与えるものとは認められない。
本件意匠は全高/全長比が0.37、全高/全幅比が1.25であるのに対して、イ号意匠は、全高/全長比が0.42、全高/全幅比が1.43であることが認められ、両意匠を対比すると、イ号意匠は本件意匠に比較して車高が高いが、その相違の程度は格別顕著なものとは認められず、少なくとも本件意匠の要部を具備することによってもたらされる共通の美感を左右するには至らないものと認められる。
…本件意匠とイ号意匠におけるウインチ及びカウンターウエイトの有無、車高の相違によって、共通の美感が左右されるものでないことは前記説示のとおりである。
その他、本件意匠とイ号意匠における上部旋回体下部後端部とエンジンボックスの前縁部との間の空間の広狭、ブームが下部走行体前縁より前方に突出している部分の長さに若干の相違が存するが、これらの点を含めて全体的に観察しても、両意匠を非類似とすることはできない。
参考情報(原審)
- 東京地裁、平成5年(ワ)第3966号、平成9年1月24日
関連情報
(作成2024.05.14、最終更新2024.05.26)
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