特許権の効力

特許

特許権の効力(内容)は、基本的には以下のとおりです。

 


特許権の効力

特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有します(特許法第68条)。

以下、「業(ぎょう)として」とは?、「特許発明」とは?、「実施」とは?、「専有(せんゆう)する」とは?、についてみていきます。

また、特許発明の「技術的範囲」や、特許権の発生と消滅、さらには特許権の効力が制限される場合について、みていきます。

 


業としてとは?

広く「事業として」の意であり、営利非営利は問いません。
個人的・家庭的な実施は、「業として」ではありません。

『具体的な事例をあげれば、洗濯屋が電気洗濯機を使用するのは「業として」であり、公共事業としての干拓事業において浚渫機を使用するのも「業として」である。これに対して電気洗濯機を家庭の主婦が使用することは「業として」に該当しない。』(特許庁編『工業所有権法逐条解説 第14版』(発明協会、1998年))

 


特許発明とは?

「特許発明」とは、特許を受けている発明をいいます(第2条第2項)。

特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければなりません(第70条第1項)。
その際、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとします(同条第2項)。但し、願書に添付した要約書の記載を考慮してはなりません(同条第3項)。

特許発明の技術的範囲については、特許庁に対し、判定を求めることができます(第71条第1項)。

 

「特許発明の技術的範囲」とは、法律的な観点ではなく、技術的な観点からみての「特許発明に含まれる範囲」です。

特許権とは、特許発明の実施(製造販売等)を独り占めできる権利ですが、その特許発明に含まれるか否かの「特許発明の技術的範囲」は「特許請求の範囲」という書類の記載に基づき定められ、「技術的範囲」は純粋に技術論で決まるということです。

たとえば、特許請求の範囲に「バネ」との記載がある場合、権利範囲に含まれるか否かを解釈する際、その「バネ」には、特段の事情がない限り「コイルバネ」や「板バネ」が含まれますが、バネ以外のもの(たとえば油圧シリンダ)は含まれません。

*出願に必要な書類、特許請求の範囲の意味や読み方などについては、本ページ末尾の関連情報のリンク先をご覧ください。

 


実施とは?

「実施」とは、次に掲げる行為をいいます(第2条第3項)。

 一 物の発明にあっては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいう)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む)をする行為

 二 方法の発明にあっては、その方法の使用をする行為

 三 物を生産する方法の発明にあっては、その方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

なお、「物」には、プログラム等が含まれ、その場合、「譲渡等」には、電気通信回線を通じた提供が含まれます。

 


専有するとは?

『実施をする権利を専有するとは、他人を排して権利者のみが独占的に実施をする権利を有する意である。したがって、他人が正当な権原又は理由がなく特許発明を実施するときは、権利を侵害することとなることは明らかである。』(吉藤幸朔著『特許法概説 第10版』(有斐閣、1994年))

権利侵害に対しては、差止請求権や損害賠償請求権などを行使することができます。

また、特許権を侵害した場合には、刑事罰が科される場合もあります。

 


差止請求権とは?

特許権者は、自己の特許権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができます(第100条第1項)。

この請求をするに際し、特許権者は、侵害の行為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあっては、侵害の行為により生じた物を含む)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができます(廃棄除却請求権:第100条第2項)。

その他、所定の行為は、特許権を侵害するものとみなされます(間接侵害:第101条各号)。
たとえば、特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為は、特許権を侵害するものとみなされます。また、特許が物の発明についてされている場合において、その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為なども、特許権を侵害するものとみなされます。

 


損害賠償請求権とは?

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法第709条)。

なお、損賠賠償請求に際し、特許法には各種の特別規定(損害額の推定、過失の推定、生産方法の推定など)が設けられています。
たとえば、他人の特許権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があったものと推定されます(第103条)。

 


刑事罰(侵害罪)

特許権を侵害した者は、所定の場合を除き、十年以下の懲役、若しくは千万円以下の罰金、又はその両方が科されます(第196条)。

また、法人の代表者又は従業者が、その法人の業務に関し、所定の違反行為をしたときは、行為者が罰せられるほか、その法人に対しても罰金刑が科されます(両罰規定:第201条第1項)。

 



特許権の発生

特許権は、設定の登録により発生します(第66条第1項)。

特許権の設定の登録は、特許出願について、審査の結果、特許をすべき旨の査定がなされた後、設定登録料(第1年から第3年までの各年分の特許料)の納付があったとき、なされます(第66条第2項、第108条第1項)。

 


特許権の存続期間

特許権の存続期間は、特許出願の日から20年をもって終了します(第67条第1項)。

但し、所定の場合、延長可能です。また、特許料の納付が条件です。第1年から第3年までの各年分の特許料は、設定登録の条件として前払いしておりますが、第4年以後の各年分の特許料は、前年以前に納付しなければなりません(第108条第2項)。納付しなければ、特許権は消滅します(第112条第4項)。

その他、所定の場合、特許が取り消されたり、特許が無効とされたりすることもあります(第114条、第123条)。

 


特許権の効力の制限

たとえば、以下の場合、特許権の効力が制限されます。

  • 実施権(ライセンス)を設定又は許諾している場合(第68条但書、第77条、第78条)
  • 利用抵触関係にある場合(第72条)
    ・特許権者は、特許発明が出願日前の出願に係る他人の特許発明、登録実用新案、登録意匠若しくはこれに類似する意匠を利用するものであるとき、又は特許権が出願日前の出願に係る他人の意匠権若しくは商標権と抵触するときは、業としてその特許発明の実施をすることができません。
  • 特許権の効力が及ばない範囲(第69条)
    特許権の効力は、以下の実施や物には及びません。
    試験又は研究のためにする特許発明の実施
    単に日本国内を通過するに過ぎない船舶若しくは航空機又はこれらに使用する機械、器具、装置その他の物
    特許出願の時から日本国内にある物
    ・二以上の医薬(人の病気の診断、治療、処置又は予防のため使用する物)を混合することにより製造されるべき医薬の発明、又は二以上の医薬を混合して医薬を製造する方法の発明についての、医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する行為、及び医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する医薬

 


関連情報

 


(作成2019.09.16、最終更新2020.12.04)
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