「無限摺動用ボールスプライン軸受」最高裁判決(平成10年2月24日)に沿って、均等論を確認してみたいと思います。
判決文にできるだけ忠実に、かつ分かりやすく、まとめたつもりですが、より正確には判決文をご確認ください。
均等論とは?
均等論とは、特許請求の範囲に記載の文言そのものの実施(文言侵害)ではないが、特許請求の範囲に記載されたものと実質同一(均等)のものは特許発明の技術的範囲に属する(特許権侵害を構成する)、との考え方をいいます。
特許発明の技術的範囲の属否
特許権侵害訴訟において、対象製品等(相手方の製品又は方法)が特許発明の技術的範囲に属するかどうかを判断するに当たっては、特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲を確定しなければならず(特許法70条1項)、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合には、対象製品等は、原則として、特許発明の技術的範囲に属するということはできない(特許権の効力、特許請求の範囲について)。
たとえば、特許発明が構成要件A,B,Cを備える場合、対象製品等もA,B,Cを備えていなければ、対象製品等は、原則として、特許発明の技術的範囲に属するということはできない。技術的範囲に属さない場合、対象製品等を実施(生産や使用等)しても、特許権侵害とはならない。
しかし、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、一定要件(下記5要件)の下、対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。これが均等論である。
均等論の5要件
特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分(相違部分)が存する場合であっても、下記5要件を満たすときは、対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。
(1)非本質的部分
相違部分が特許発明の本質的部分ではないこと。
(2)置換可能性
相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであること。
(3)置換容易性(侵害時基準)
そのように置き換えることに、当業者(当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであること。
(4)非公知性・非容易推考性(出願時基準)
対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから前記出願時に容易に推考できたものではないこと。
(5)意識的除外等の特段の事情がない
対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないこと。
均等論を認める理由
(一)特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となる。
(二)このような点を考慮すると、特許発明の実質的価値は第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当である。
(三)他方、特許発明の特許出願時において公知であった技術及び当業者がこれから前記出願時に容易に推考することができた技術については、そもそも何人も特許を受けることができなかったはずのものであるから(特許法29条)、特許発明の技術的範囲に属するものということができない。
(四)また、特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど、特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されない。
均等論の例
『例えば、人工ゴムが存在しなかった時代にクレームの文言として天然ゴムと記載していたとしても、現代において天然ゴムを人工ゴムに置換した場合に特許権侵害にあたらないとすることは、特許権の保護として十分ではない場合が多いでしょう。そこで、クレームに記載された構成中に対象製品などと異なる部分があるとしても、その異なる部分が特許発明の本質的な部分ではなく、その異なる部分を対象製品などにおけるものと置き換えても特許発明の目的を達成することができるなど、一定の要件を満たす場合は、対象製品はクレームに記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解されています。』(経済産業省ウェブサイト内「特許権の侵害とは」より)
関連情報
(作成2020.07.15、最終更新2020.07.16)
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