各種投稿

包装用容器事件:S字模様の向きと本数、星形と鋸歯円【動画】

包装用容器事件:S字模様の向きと本数、星形と鋸歯円」について、解説動画をYouTubeに投稿しました(10分42秒)。

円筒体の周側面に模様が付された包装用容器(包装用缶)について、意匠の類否と創作非容易性が争われた「包装用容器事件」を確認してみます。「2本の逆S字状模様と、星形模様」が表された本件意匠について、「1本のS字状模様と、周縁が鋸歯状の小円模様」が表された引用意匠との間での類否と、創作の容易性とが争われた事件です。

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包装用容器事件:S字模様の向きと本数、星形と鋸歯円【動画】

 


(作成2025.05.10、最終更新2025.05.10)
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敷居用レール材事件:言葉での形状表現、大体の割合、ありふれた証拠【動画】

敷居用レール材事件:言葉での形状表現、大体の割合、ありふれた証拠」について、解説動画をYouTubeに投稿しました(5分59秒)。

この事件では、次の点について、判断が示されました。

  • 【形状表現の違い】意匠の類否判断において、意匠の形状を言葉により表現するが、その表現の仕方の違いによって結論に差が出るのか。
  • 【寸法割合の違い】寸法割合に言及する際、厳密には多少異なっている場合はどうか。
  • 【ありふれた証拠の基準日】引用意匠の特徴がありふれたものであることを示す証拠の基準日はいつか。

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敷居用レール材事件:言葉での形状表現、大体の割合、ありふれた証拠【動画】

 


(作成2025.03.29、最終更新2025.03.29)
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部分意匠の類否と活用(関連意匠・全体意匠・非類似物品との関係)

目次(全体意匠・部分意匠・関連意匠・組物の意匠の登録例)

 


はじめに

部分意匠の類否(類似か否か)について、飲食用スプーン、フォーク、ナイフで、事例を確認してみます。

(1)意匠Aがあるのに意匠Bが別個に意匠登録されているなら、両意匠は非類似です。

(2)意匠Bが意匠Aの関連意匠として登録されているなら、両意匠は類似です。

(3)意匠の類否判断には、形態(形状・模様・色彩)だけでなく、物品も関係します。仮に形態が同じでも、「物品が異なれば意匠は異なる」という原則があります。たとえば、飲食用スプーンとフォークとは、基本的には別個の意匠(非類似の意匠)となります。但し、後述するように、部分意匠なら、類似となる場合(関連意匠として登録される場合)もあります。一方で、部分意匠でも、やはり非類似とされることもあります。

全体意匠と部分意匠、通常意匠と関連意匠、物品の違い(スプーン、フォーク、ナイフの違い)による意匠の類否判断事例を確認してみます。

なお、下記事例の意匠登録の創作者様、出願人様及び代理人様と、弊所とは一切関係ありません。内容・図面が分かりやすいため、事例として挙げさせていただきました。関係者の皆様には何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

 


全体意匠の例(類似)

飲食用スプーンが関連意匠として登録されています。つまり、両意匠は、類似です。

類似
本意匠 関連意匠
登録第1500912号 登録第1502109号
飲食用スプーン 飲食用スプーン

 


全体意匠の例(非類似)

スプーンとフォークが、互いに無関係で、通常の意匠登録がされています。つまり、両意匠は、非類似です。

非類似
登録第1694568号 登録第1694569号
スプーン フォーク

 


ほぼ全体意匠の例(非類似)

スプーン、フォーク、ナイフが、部分意匠ではあるものの、“ほぼ全体意匠”として、互いに無関係で、通常の意匠登録がされています。つまり、これら意匠は、互いに非類似です。

厳密にいえば、各意匠は部分意匠として登録されていますが、全体意匠に近いです。

非類似
登録第1791507号 登録第1791508号 登録第1793450号
飲食用スプーン 飲食用フォーク 飲食用ナイフ
白色に着色した部分以外の部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。

 


部分意匠の例1(類似)

スプーンの柄、フォークの柄についての部分意匠です。スプーンが本意匠(基礎意匠)で、フォークが関連意匠として登録されています。つまり、両意匠は、類似です。

一方、ナイフの柄についての部分意匠は、通常の意匠登録です。つまり、スプーンやフォークとは非類似です。

類似 非類似
本意匠 関連意匠
登録第1791509号 登録第1791572号 登録第1793451号
飲食用スプーン 飲食用フォーク 飲食用ナイフ
白色に着色した部分以外の部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。

◆その他の同種の例

  • 本意匠(登録第1776599号:飲食用スプーン)と、関連意匠(登録第1776623号:飲食用フォーク)
  • 本意匠(登録第1771435号:飲食用スプーン)と、関連意匠(登録第1771509号:飲食用フォーク)と、これらと非類似の通常意匠(登録第1766125号:飲食用ナイフ)
  • 本意匠(登録第1096090号:飲食用スプーン)と、関連意匠(登録第1099902号:飲食用フォーク)
  • 本意匠(登録第1327562号:飲食用フォーク)と、関連意匠(登録第1328020号:飲食用スプーン)

 


部分意匠の例2(類似)

スプーンの柄、ナイフの柄、フォークの柄の一部(装飾凹部)についての部分意匠です。スプーンが本意匠(基礎意匠)で、ナイフとフォークが関連意匠として登録されています。つまり、ナイフとフォークは、スプーンに類似します。

類似
本意匠 関連意匠 関連意匠
登録第1213602号 登録第1214115号 登録第1215311号
飲食用スプーン 飲食用ナイフ 飲食用フォーク
実線で表された部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。

◆その他の同種の例

  • 本意匠(登録第1071305号:飲食用スプーン)と、関連意匠(登録第1071398号:飲食用フォーク)と、関連意匠(登録第1071399号:飲食用ナイフ)

 


部分意匠の例3(非類似)

スプーンの柄、フォークの柄についての部分意匠でも、非類似とされることもあります。

  • 登録第1727438号(飲食用スプーン)と、登録第1727439号(飲食用フォーク)
  • 登録第1272898号(飲食用スプーン)と、登録第1277103号(飲食用フォーク)

 


組物の意匠の例

組物として、一組の飲食用ナイフ、フォーク及びスプーンのセットとしても、意匠登録できます。ナイフ、フォーク、スプーンそれぞれの権利ではなく、あくまでもセットとしての権利となります。

登録第1626598号
一組の飲食用スプーン、フォーク及びナイフセット
組物の意匠

 


関連情報

 


(作成2025.03.22、最終更新2025.03.24)
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意匠の新規性喪失の例外(商品販売後・ウェブ掲載後の意匠登録出願)【動画】

意匠の新規性喪失の例外(商品販売後・ウェブ掲載後の意匠登録出願)について、解説動画をYouTubeに投稿しました(7分43秒)。

意匠の新規性喪失の例外について、確認してみます。意匠登録にはデザイン公開前に出願が必要なのか、意匠の新規性喪失の例外とは何か、意匠の新規性喪失の例外を認める理由、意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための要件について、順に確認していきます。

2025年3月現在の情報です。

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意匠の新規性喪失の例外(商品販売後・ウェブ掲載後の意匠登録出願)【動画】

 


(作成2025.03.15、最終更新2025.03.15)
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おろし器事件:公報掲載後の新規性喪失の例外適用の可否【動画】

おろし器事件:公報掲載後の新規性喪失の例外適用の可否」について、解説動画をYouTubeに投稿しました(9分2秒)。

意匠の新規性喪失の例外規定の趣旨(例外規定を設けた理由)を示した「おろし器事件」を確認してみます。

意匠登録出願前に商品販売やウェブ掲載等によりデザインを公開すると、新規性がなくなり意匠登録を受けることができなくなります。しかし、最初の公開から1年以内なら、意匠登録を受けられる場合もあります。そのための手続きが「新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続」です。

意匠登録を受けるには、原則としてまずは出願し、その後に販売等の順序にしなければなりません。しかし、実際には、ひとまず、販売、展示、見本の頒布等により売行きを打診してみて、一般の需要の有無を確かめた後に、需要があるものについて意匠登録出願することもあるので、そのために「新規性喪失の例外規定」が設けられています。

例外適用を受けるには、「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して」新規性を喪失したことが要件となります。外国で登録公報の発行後(あるいは日本で特許公報等の発行後)、新規性喪失の例外適用を受けて意匠登録できるか否かが争われた事件です。意匠法の第4条第2項の括弧書きに関する判決です。

なお、2025年3月現在、新規性喪失例外期間は1年、意匠の優先期間は6ヶ月です。

 

新規性喪失後に意匠登録出願をご検討の場合、「意匠の新規性喪失の例外(商品販売後・ウェブ掲載後の意匠登録出願)」をご覧ください。

アマゾン・楽天市場・ヤフーショッピング・自社ECサイト等での販売、クラウドファンディングでの販売・資金調達、インスタグラム・エックス(旧ツイッター)・ユーチューブ・ファイスブック等への投稿、自社コーポレートサイトへの掲載などを行った後、やはり意匠登録されたい場合、それ以上の公開を控えて、速やかに意匠登録出願(申請)をする必要があります。

 

2025年3月現在の情報です。

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おろし器事件:公報掲載後の新規性喪失の例外適用の可否【動画】

 


(作成2025.03.08、最終更新2025.03.08)
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部分意匠について【動画】

部分意匠について」について、解説動画をYouTubeに投稿しました(11分23秒)。

意匠登録の内、部分意匠について、確認&検討してみます。部分意匠とは何か、全体意匠と部分意匠の違いと具体例、全体意匠と部分意匠のどちらで出願するか、部分意匠の出願割合、部分意匠の出願方法、部分意匠とならない意匠、部分意匠の類否判断基準、部分意匠の類否判断事例について、順に見ていきます。

全体意匠と部分意匠のどちらで出願すべきかは、弊所の見解です。案件に応じて、出願人や弁理士が考え、その時点でベストと思われるもので出願するしかありません。

2025年2月現在の情報です。

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部分意匠について【動画】

 


部分意匠の実際の登録例や類否判断事例は、次のリンク先をご覧ください。

全体意匠、部分意匠、関連意匠、組物の意匠の具体例(活用例)をご紹介しています。

飲食用ナイフ、フォーク、スプーンで、事例をご紹介しています。

物品が異なっても、部分意匠なら類似意匠となる場合があります。

 


(作成2025.02.24、最終更新2025.04.05)
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部分意匠について

目次

 


部分意匠とは?

部分意匠とは、物品等の部分の形状等をいいます。より具体的には、物品の部分の形状等、建築物の部分の形状等、又は画像の部分であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいいます。ここで、形状等とは、形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合をいいます。

さらに言えば、部分意匠とは、物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠登録出願に係る意匠(出願意匠・登録意匠)であり、端的にいえば、物品等の一部分について権利請求する意匠です。

意匠法において、「部分意匠」という用語が出てくる訳ではありません。物品等の部分についての意匠を、便宜上・実務上、「部分意匠」と呼んでいます。

 


全体意匠と部分意匠

物品等のデザインを保護したい場合、特許庁に意匠登録出願して審査をパスしなければなりません。出願に際し、どのようなデザインなのか、図面や写真などで、意匠を特定します。意匠登録して保護したい箇所が、物品等の全体であれば「全体意匠」となり、一部であれば「部分意匠」となります。

たとえば、ボールペンについて意匠登録を受けたい場合、ボールペン全体について意匠登録を受けることもできますし、ボールペンの一部について意匠登録を受けることもできます。ボールペンの一部について意匠登録を受ける場合に、ボールペンの替え芯などの「部品」として意匠登録を受けることもできますが、物理的に分離できない箇所についても「部分」として意匠登録を受けることができます。部分ではなく部品全体として意匠登録を受ける場合、通常の全体意匠と同様に出願すれば足ります。

全体意匠と部分意匠の例1(図面出願)

全体意匠(完成品・部品) 部分意匠
全体意匠の例(完成品・部品):図面出願 部分意匠の例:図面出願
【意匠に係る物品】
・完成品=ボールペン
・部品=筆記具用クリップ、ボールペン用替え芯
【意匠に係る物品】ボールペン
【意匠の説明】実線で表した部分が、意匠登録を受けようとする部分である。

 

全体意匠と部分意匠の例2(写真出願)

全体意匠(完成品・部品) 部分意匠
全体意匠の例(完成品・部品):写真出願 部分意匠の例:写真出願
【意匠に係る物品】
・完成品=ボールペン
・部品=ボールペン用替え芯
【意匠に係る物品】ボールペン
【意匠の説明】赤色で塗った部分以外の部分が、意匠登録を受けようとする部分である。

 


全体意匠と部分意匠のどちらで出願?

出願人により、あるいは弁理士により、考え方が異なるかもしれません。弊所では、主として、出願がはじめての中小企業様や個人事業主様からの案件が多く、予算(出願できる件数)も非常に限られた範囲での対応のことが多いです。このような状況下での経験からいえば、次のとおりです。

全体意匠か部分意匠かは、案件によると言わざるを得ません。たとえば、商品化する意匠そのものズバリを保護したい場合、全体意匠を検討します。審査において、意匠全体について、他社権利との抵触を確認できます(同一・類似のものがあれば拒絶されます)。一方、特に真似されたくない特徴部があれば、その箇所の部分意匠を検討します。費用的に許せば、様々な態様での権利取得が望まれます。

どちらの権利がよいかは、一概にはいえません。部分意匠で登録すると、登録を受けた部分の模倣は排除できますが、その部分が変更されてしまえば、侵害を問えないことになります。また、部分意匠の場合、物品等の一部についての権利として、侵害訴訟において、損害賠償額が低く算定されるおそれもあります。一方、全体意匠で登録すると、全体としての類否が問題となり、一部を模倣されても全体として非類似なら侵害を問えないことになります。

どちらが登録しやすいかも、一概にはいえません。基本的には全体意匠の方が登録しやすいと思いますが、全体意匠では通らないが部分意匠では通ることもあります。従来から知られた製品の一部だけを変更した場合、その変更部が特徴的なものでも、全体意匠では埋没して登録を受けられない場合がありますが、部分意匠としてなら登録を受けられる場合もあります。一方、部分意匠として出願した場合、全体としては非類似でも、部分意匠に係る部分が公知なら、登録を受けられません。

先行意匠としてどのようなものがあるのかも把握(調査)して、出願の仕方を決める必要があります。また、全体意匠と部分意匠の他、関連意匠の活用も考えられます。

全体意匠と部分意匠、通常意匠と関連意匠、物品の違いによる類否判断事例については、次のページをご覧ください。
 >部分意匠の類否と活用(関連意匠・全体意匠・非類似物品との関係)

 


部分意匠の出願割合

特許庁編「特許行政年次報告書2019年版」によれば、出願全体に占める部分意匠の出願件数割合は、42.3%です(2018年)。

 


部分意匠の出願方法

願書の【意匠に係る物品】の欄は、次のとおりです。たとえば、ボールペンの全体ではなく一部(クリップ部分)について意匠登録を受けようとする場合でも、物品名は、「ボールペン」となります。「ボールペンのクリップ部分」などにはなりません。

願書の【意匠の説明】の欄は、次のとおりです。たとえば、図面において、意匠登録を受けようとする部分を実線で、その他の部分を破線で描いた場合、「実線で表した部分が、意匠登録を受けようとする部分である」旨、記載します。

【図面】又は【写真】については、上記でご紹介のとおりです。図面において、実線と破線とで描き分けたり、写真において、一部を着色したりして、「意匠登録を受けようとする部分」と「その他の部分」とが分かるようにします。

 


部分意匠とならない意匠

特許庁の意匠審査基準によれば、次のとおりです(2025年2月現在)。

【A】意匠登録出願は、意匠ごとにしなければなりません。一つの物品等の中に、物理的に分離した二以上の「意匠登録を受けようとする部分」が含まれている場合、原則として、意匠ごとにした意匠登録出願に該当しないと判断されます。

しかしながら、「形状等の一体性がある場合」や「機能的な一体性がある場合」などは、物理的に分離した二以上の「意匠登録を受けようとする部分」が含まれているものであっても、一意匠と取り扱われます。

部分意匠:一意匠と判断するものの例

 

【B】他の意匠と対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分であることが必要です。すなわち、「意匠登録を受けようとする部分」は、意匠に係る物品全体の形状等の中で、他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分、すなわち、当該意匠の外観の形状等の中に含まれる一つの閉じられた領域でなければなりません。また、「意匠登録を受けようとする部分」と「その他の部分」の境界が明確でなければなりません。

(1) 他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分に該当すると判断しないものの例

  • 「意匠登録を受けようとする部分」が稜線のみのもの
    稜線は面積を持たないものであるため、他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分に該当しない。
    【事例】「建築用コンクリートブロック」
    部分意匠とならない意匠:「意匠登録を受けようとする部分」が稜線のみのもの
  • 意匠に係る物品全体の形状等のシルエットのみを表したもの
    当該意匠の外観の形状等の中に含まれる一つの閉じられた領域とは認められないため、他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分に該当しない。
    【事例】乗用自動車の側面を投影したシルエットのみを表したもの

(2) 他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分に該当すると判断するものの例

  • 以下の事例は、いずれも「意匠登録を受けようとする部分」が包装用容器という物品全体の形状等の中で他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分である。
    【事例1】「包装用容器」 【事例2】「包装用容器」
    部分意匠:他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分に該当すると判断するものの例

 


部分意匠の類否判断基準

部分意匠の類否判断では、単に部分意匠に係る部分の【形状等】だけでなく、物品等や部分の【用途】及び【機能】の他、部分意匠に係る部分の物品等全体に対する【位置】、【大きさ】、【範囲】も考慮されます。

 

特許庁の意匠審査基準によれば、部分意匠の場合、対比する両意匠が以下の全てに該当する場合に限り、両意匠は類似すると判断されます。

(1) 出願意匠と公知意匠の「意匠に係る物品等」の【用途】及び【機能】が同一又は類似であること

(2) 出願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「相当する部分」の【用途】及び【機能】が同一又は類似であること

(3) 出願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品等の全体の形状等の中での【位置】、【大きさ】、【範囲】と、公知意匠における「相当する部分」の当該物品等の全体の形状等の中での【位置】、【大きさ】、【範囲】とが、同一又は当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであること

(4) 出願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「相当する部分」の【形状等】が同一又は類似であること

 

意匠審査基準における類否判断について、詳細は、「意匠の類否判断(意匠審査基準の読解)」をご覧ください。

 


部分意匠の類否判断事例

部分意匠について、類似か否かが争われた事件の例です。詳しくは、各リンク先をご覧ください。

また、全体意匠と部分意匠、通常意匠と関連意匠、物品の違いによる類否判断事例については、次のページをご覧ください。

 


部分意匠のご相談

ご依頼ご相談は、お問合せのページからお気軽にご連絡ください。

日本全国からご相談いただけます。初回、相談料は無料です。

インターネットを介したリモート相談となります。弊所からEメールで招待状をお送りしますので、そのメールに記載のリンクをクリックするだけで、ご参加いただけます。あとは、弊所がご提示する画面を見ながら、ご相談いただけます。画面操作はすべて弊所で行いますので、はじめてでもご安心ください。

 


関連情報

 


(作成2025.02.15、最終更新2025.03.22)
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敷居用レール材事件:言葉での形状表現、大体の割合、ありふれた証拠

意匠登録無効審判の無効審決取消訴訟である「敷居用レール材事件」の東京高裁判決を確認してみます。

この事件では、次の点について、判断が示されました。

  • 意匠の類否判断を説明する際、意匠の形状を言葉により表現するが、その表現の仕方には種々のものがあり、その違いによって結論に差が出るのか。
  • 寸法割合に言及する際、厳密には多少異なっている場合はどうか。
  • 引用意匠の特徴がありふれたものであることを示す証拠として、引用意匠の出願日より後に発行されたものでもよいのか。

なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。

 


敷居用レール材事件:東京高裁、平成13年(行ケ)第279号、平成13年11月15日

主文

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判

1 原告

特許庁が無効2000-35485号意匠登録無効審判事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。

2 被告

主文と同旨

 

第2 当事者間に争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「敷居用レール材」として、別紙の意匠の登録を出願し、意匠登録を受けた(意匠登録第1075575号)。

被告は、本件意匠登録を無効にすることについて審判を請求し、特許庁は、これを無効2000-35485号事件として審理した結果、「登録第1075575号の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決をし、その謄本は、原告に送達された。

2 審決の理由

審決は、別紙のとおり、本件登録意匠は、意匠登録第989589の類似1号の意匠(引用意匠)に類似するものであり、意匠法3条1項3号に該当するとして、本件登録意匠権の登録は無効である、と判断した。

審決認定の本件登録意匠と引用意匠との共通点と相違点
[共通点]
 (1) 長手方向に連続する板状のレール材であって、上方に漸次拡がる戸車溝をレール上面の片側に寄せて1本配置した全体の基本構成。
 (2) 戸車溝の態様について、底部を一段陥没させて断面視略矩形状の細溝を形成し、該細溝の縁部から戸車溝の上縁部にかけて傾斜するやや広幅の戸車転動面を形成していること。
 (3) レールの全幅を全高の略5倍程度としていること。
[相違点]
 (1) 戸車転動面の態様について、本件登録意匠においては、断面視略円弧状の緩やかな湾曲面であるのに対し、引用意匠においては、平面状であること。
 (2) 戸車溝底部の細溝の態様について、本件登録意匠においては、両側が逆台形状に僅かに傾斜しており、該細溝の深さが戸車溝全体の深さの略3分の1程度であるのに対し、引用意匠においては、両側が垂直に切り立っており、該細溝の深さが戸車溝の深さの略半分程度であること。
 (3) レール上面両隅の態様について、本件登録意匠においては、直角に角張らせているのに対し、引用意匠においては、丸面に面取りしていること。
 (4) レール裏面の態様について、本件登録意匠においては、平坦面であるのに対し、引用意匠においては、両側寄りに1本ずつ、合計2本の条溝を刻んでいること。

 

第3 原告主張の審決取消事由の要点

・・・省略・・・

 

第4 被告の反論の要点

・・・省略・・・

 

第5 当裁判所の判断

1 取消事由1(本件登録意匠と引用意匠との共通点の認定の誤り)について

原告は、審決は、本件登録意匠と引用意匠の共通点の一つとして、「(2)戸車溝の態様について、底部を一段陥没させて断面視略矩形状の細溝を形成し、該細溝の縁部から戸車溝の上縁部にかけて傾斜するやや広幅の戸車転動面を形成していること。」を認定したが、誤りである、引用意匠の戸車溝は、「底部を一段陥没させ」たものではなく、「戸車の外輪が転動するための矩形の溝を構成して、その溝の上部に戸車の内輪が転動するための左右切欠きを設けた」ことがその形状の特徴であり、引用意匠のレールは、いわゆるY字型レールである、と主張する。

しかし、甲第3号証(引用意匠の意匠公報)によれば、審決が、引用意匠の溝の断面形状を、「底部を一段陥没させて断面視略矩形状の細溝を形成し、該細溝の縁部から戸車溝の上縁部にかけて傾斜するやや広幅の戸車転動面を形成している」との表現を用いて認定したことに何ら誤りはないことが、明らかである。すなわち、二つの意匠の類否の判断の説明をするために、意匠の形状を言葉により表現する場合、表現の仕方には種々のものがあり得るのであり、殊更に恣意的な表現を用いることは許されないとしても、そのことを除けば、その中のどれを選択することも可能であるというべきである要は、それぞれの意匠が正確に把握されていればよいのであり、それを表現する方法を一つに限定すべき理由はないからである。

甲第3号証によれば、本件においては、審決が殊更に恣意的な表現を用いて引用意匠を認定したものとは認められないから、審決のような表現で本件登録意匠と引用意匠の共通点を認定することに何ら誤りはない。したがって、原告が主張する取消事由1は、理由がない。

 

2 取消事由2(本件登録意匠と引用意匠の相違点の認定の誤り)について

審決は、本件登録意匠と引用意匠との相違点の一つとして、「(2)戸車溝底部の細溝の態様について、本件登録意匠においては、両側が逆台形状に僅かに傾斜しており、該細溝の深さが戸車溝全体の深さの略3分の1程度であるのに対し、引用意匠においては、両側が垂直に切り立っており、該細溝の深さが戸車溝の深さの略半分程度であること。」を認定している。原告は、この認定について、本件登録意匠の細溝の深さは、戸車溝全体の深さの略3分の1程度ではなく4分の1程度であり、引用意匠の溝は細溝ではなく太溝であり戸車溝全体の3分の2の深さである、すなわち、本件登録意匠の細溝部分は、戸車溝深さの25%程度であるのに対して、引用意匠の太溝部分は戸車溝深さの67%程度を占めているのである、と主張する。

確かに、本件登録意匠と引用意匠の溝の深さの割合は、意匠公報の図面上でこれを定規をもって測定すれば、ほぼ原告主張のとおりであることは否定し得ない。しかし、審決は、本件登録意匠及び引用意匠の全体的な構成及びその特徴的な形状を認定しているのであって、その中で、戸車溝の全体の深さに対する細溝の深さの大体の割合を目視により認定しているにすぎないことが明らかである。

そして、「意匠とは、物品の形状、模様・・・であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」(意匠法2条1項)のであるから、本件において、戸車溝の全体の深さに対する正確な割合が、両意匠の対比において重要な要素となるのなら格別、そうでないのなら、その割合について、目視によりおおよその割合を認定することは何ら差し支えなく、上記のような認定上の誤差が生じたとしても、これを審決の結論に影響を与える瑕疵ということはできない。そして、本件における両意匠の対比においては、審決のいう「細溝」の深さの戸車溝全体の深さに対する正確な割合が重要な要素となるものではないことは、取消事由3において述べるところから明らかである。

また、審決が、引用意匠の溝を細溝と認定したのは、上段の「傾斜するやや広幅の戸車転動面」に対して、細溝と表現したものと認めることができるから、この表現にも問題はない。したがって、原告の取消事由2の主張は採用することができない。

 

3 取消事由3(本件登録意匠と引用意匠の類否判断の誤り)について

(1) 審決は、「共通点(1)の全体の基本構成及び共通点(3)の全体的な寸法比率については・・・多分に機能的要請に基づくものではあるが、両意匠の全体的な骨格を成すものであって、比較的単純な形態から成る両意匠間においては、その共通性は観察者に強く印象づけられるものであり」と認定している。原告は、この認定について、物品そのものの限られた形状と機能に共通性があっても、その共通性は、観察者に強く印象づけられるものではなく、したがって、意匠の類否判断の基準とはなり得ない、逆に、観察者は、共通性があるがゆえにこそ、その部分を無視するのである、と主張する。

しかし、共通点(1)と(3)は、両意匠の基本的な形状でありその全体的な骨格を示すものであることに、両意匠が比較的単純な形態から成ることを併せて考慮すると、その基本的な骨格における共通性が観察者に強く印象づけられるとした審決の認定は正しいということができる。この点を論難する原告の前記主張は、正当な根拠に欠けるものであり、採用し得ない。

 

(2) 審決が、「共通点(2)の戸車溝の態様については、底部を一段陥没させた態様が特徴的なものであって、これが共通点(1)に加わることによって両意匠の全体的な基調が形成され、両意匠間に強い類似性をもたらしているものと認められる。」と認定したのに対し、原告は、本件登録意匠の戸車溝が一段陥没させた態様であるのに対して、引用意匠の戸車溝においては、太溝部分が戸車溝の大部分を占めており、それが意匠全体の特徴的な部分であり、意匠全体の形状を決定づけている、両意匠の戸車溝の態様は、両意匠間に強い類似性をもたらしているのではなく、逆に、強い非類似性をもたらしているのである、と主張する。

また、審決が「相違点(1)の戸車転動面の態様における差異については、本件登録意匠の湾曲の程度が摩耗による経年変化程度の極緩やかなものであり、しかも出隅部における断面視円弧状の面取りが所謂「匙面」としてありふれたものである」と認定したのに対し、原告は、この部分は審決の基本的な誤りの部分である、すなわち、左右に延びた2面の「匙面」は、いわゆる「お碗形状」であり、これこそが本件登録意匠の最大の特徴的な形状である、引用意匠は、それに対していわゆる「Y字形状」であり、双方は基本形状が全く相違する、と主張する。

しかし、レール材に係る意匠において、戸車用の溝の形状が、その上部が傾斜する広幅の戸車転動面となっている2段構造になっていることが、単純な1段の溝形状のものに比べ、意匠的に顕著な差異をもたらすものであることは明らかというべきである。

そして、レール材としての商品の性質あるいは実際の使用態様を考慮すれば、レール材の前述のような2段の溝形状のうち、下段の溝の深さが浅いか深いかの差異は、レール材全体からみると微細な差異であり、意匠的にわずかな差異をもたらすにすぎないということができる。

また、溝の上部の傾斜する戸車転動面が緩やかな湾曲面状であるか、平面状であるかとの差異も、レール材としての商品の性質あるいは実際の使用態様を考慮すれば、レール材全体からみると微細な差異であり、意匠的にはわずかな美感上の差異をもたらすにすぎないものということができる。

 

もっとも、レール材を取引者・需要者が購入するに当たって、これを手に取り、レール材の長手方向の側面から、その溝の断面形状を見ることがないわけではなく、その場合は、下段の溝の深さの差異や、溝の上部の傾斜する戸車転動面が湾曲面状であるか、平面状であるかの差異に気がつく者もいることは否定し得ないところである。

しかし、本件登録意匠においては、レール材の溝の上部の傾斜した戸車転動面の湾曲の程度は緩やかなものであるにすぎず、レール材としての商品の性質を考えると、両意匠を全体的に、離隔的に観察すれば、レール材の下段の溝の深さの全体の溝の深さに対する割合や上段に傾斜する戸車転動面の断面形状が平面状か緩やかに湾曲しているかの差異は目立つものではなく、審決が共通点(1)ないし(3)で認定した両意匠の全体的な共通点から受ける意匠的な美感を異ならせるものとまでは、いうことができない。

 

(3) 原告は、引用意匠の特徴が「底部を一段陥没させた溝」であるとしても、この形状の特徴は、甲4ないし8号証公報にみられるもので、全く創作性のないごくありふれた公知の形状である、したがって、引用意匠は、独創性が極めて高い意匠とはいえず、逆に独創性に乏しい類似範囲の狭い意匠である、と主張する。

しかし、甲4ないし8号証公報は、いずれも引用意匠の意匠登録出願日より後に発行されたものであるから、引用意匠の上記形状の特徴である「底部を一段陥没させた溝」は、引用意匠との関係において公知の形状であるとは認められず、かえって、引用意匠を特徴づける形状であることが推認されるのであり、原告の上記主張は採用することができない。そして、本件登録意匠は、前記のとおり、引用意匠を特徴づける「底部を一段陥没させた溝」の形状において、引用意匠と共通点を有するものであり、この点が他の共通点と相まって、本件登録意匠を引用意匠とその美感を共通にする根拠の一つとなっていることは前述のとおりである。

 

(4) 原告は、両意匠の相違形状がもたらす機能面での差異は大きく、別紙参考図(2)に示すように、本件登録意匠のレール材は、Y型、U型、V型の3種類の戸車に対応できるのに対し、引用意匠のレール材では、Y型戸車にしか適合性がない、と主張する。

しかし、原告主張の事実を認め得る証拠はなく、また、両意匠を実施した各レール材について、このような機能上の差異があるかどうかは、本件登録意匠と引用意匠の類否を判断する上において、ほとんど影響を与えない事柄であることが明らかである。原告の主張は失当である。

 

(5) 原告は、審決が「相違点(4)のレール裏面の態様における差異については、・・・該部位が使用時に裏面に隠れてしまうことを考慮すれば、その差異は両意匠の類否を左右するものとは成し得ない。」と認定したことについて、レール材が販売ルートに存在するときは、裏も表も関係なく当業者の目に触れるのであるから、審決の認定は誤りである、と主張する。

しかし、本件登録意匠におけるレールの裏面における2条の溝は、その溝の幅や深さからみてもわずかなものであって、目立つものではなく、また、レール材の具体的な使用態様においてレールの裏面の目立たない位置に存在するものであるから、両意匠の全体としての美感に与える影響はわずかなものである。したがって、この点についての審決の認定に誤りはなく、原告の主張は採用することができない。

 

4 結論

以上に検討したところによれば、原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく、その他、審決には、これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

 


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(作成2025.02.13、最終更新2025.02.13)
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おろし器事件:公報掲載後の新規性喪失の例外適用の可否

意匠登録を受けるには、新規性(出願前に同一・類似の意匠がないこと)や創作非容易性(容易に創作できないこと)が要求されます。出願前にデザインを公開すると、新規性がなくなり、意匠登録を受けることができなくなります。たとえば、出願前に、商品を販売したり、ホームページやブログに掲載したり、SNSに投稿したりすると、原則として、もはや意匠登録を受けることはできません。自分の(自社の)デザインであっても、意匠登録の障害となります。

しかしながら、最初の公開から1年以内なら、意匠登録を受けられる場合もあります。たとえば、既に商品を販売したり、ホームページやSNSにデザインを公開したりしたが、お客様からの反響がよいので、意匠登録したい場合、所定手続(新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続)をすることで、意匠登録できる場合もあります。

「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して」新規性を喪失したことが要件となりますが、内外国特許公報等への掲載が「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する」場合に当たるか否かが争われた事件です。

判決では、内外国特許公報等への掲載は、意匠法4条2項の「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する」場合には当たらないとされました。その後の法改正で、この点、条文にも明記されました(下記下線部)。

なお、新規性喪失の例外期間は、平成30年の法改正により「1年」に延長されましたが、それ以前は「6ヶ月」でした。

以下、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。

意匠法(2025年2月12日現在)
(意匠登録の要件)
第3条 工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
 一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
 二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠
 三 前二号に掲げる意匠に類似する意匠

(意匠の新規性の喪失の例外)
第4条 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第3条第1項第一号又は第二号に該当するに至った意匠は、その該当するに至った日から1年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第2項の規定の適用については、同条第1項第一号又は第二号に該当するに至らなかったものとみなす。
 2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第3条第1項第一号又は第二号に該当するに至った意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項第一号又は第二号に該当するに至ったものを除く。)も、その該当するに至った日から1年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第2項の規定の適用については、前項と同様とする。

 


おろし器事件:東京高裁、平成12年(行ケ)第331号、平成12年10月17日

主文

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判

1 原告

特許庁が平成8年審判第8252号事件について平成12年4月20日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。

2 被告

主文と同旨

 

第2 当事者間に争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「おろし器」とし、その形態を別紙のとおりとする意匠(本願意匠)について、意匠登録出願をしたが、拒絶査定を受けたので、これに対する不服審判を請求した。

特許庁は、これを平成8年審判第8252号事件として審理した結果、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、原告にその謄本を送達した。

2 審決の理由の要点

審決の理由は、別紙審決書の理由の写し記載のとおりである。要するに、本願意匠は、その出願前に頒布された外国の意匠公報に記載された意匠(原告創作の意匠)と類似するので、意匠法3条1項3号に該当するとし、また、(仮に、本願意匠が同意匠公報に記載された意匠と同一の意匠であるとしても、)意匠登録出願前に内外国の特許公報、実用新案公報、意匠公報(内外国特許公報等)に掲載された意匠については、意匠法4条2項の適用はなく、新規性喪失事由の例外事由にはならないので、結局、本願意匠は意匠登録を受けることができない、というものである。

 

第3 原告主張の審決取消理由の要点

・・・省略・・・

 

第4 被告の反論の要点

・・・省略・・・

 

第5 当裁判所の判断

1 当事者間に争いのない事実及び証拠によれば、
原告は、工業的意匠の国際寄託に関するヘーグ協定に基づき、引用意匠を、1993年4月7日に国際事務局に寄託したこと、
同事務局は、寄託にかかる引用意匠を、同年6月30日に発行した本件外国公報に掲載したこと、
原告は、同年11月5日に国内で本願意匠の意匠登録出願をしたこと、
本願意匠は、引用意匠と同一の意匠であることが認められる。

被告は、本願意匠と引用意匠が同一ではなく、類似するにとどまる旨主張する。しかしながら、本願意匠と引用意匠とが同一の意匠であることは明らかであり、被告の主張は失当である。したがって、審決が本願意匠が引用意匠に類似するとして意匠法3条1項3号に該当するとした判断は誤りである。

しかし、審決は、予備的に、両意匠が同一であると仮定したうえで、意匠法4条2項の適用の有無を検討しているものと認められ、同条項の適用がなければ、結局、本願意匠は、意匠登録を受けられないことになるから、上記判断の誤りは、直ちに審決の結論に影響を及ぼすものではない。

 

2 そこで、本願意匠が、引用意匠の本件外国公報への掲載により、意匠法4条2項の「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第3条第1項・・・二号に該当するに至った意匠」に当たるとして、新規性を喪失しないと認められるか否かについて検討する。

確かに、内外国特許公報等への掲載は発明者等の出願行為等に基づくものであるから、このような場合も意匠法4条2項の「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する」場合に当たるとの解釈も、文言上は考え得るところである。

しかしながら、意匠法4条2項は、新規性の判断を、出願時を基準に、厳格に運用すると、出願人に酷な場合が生じる場合があるため、これを救済するために設けられた例外規定であるから、その適用範囲は立法趣旨に従って限定的に解釈されるべきである。証拠及び弁論の全趣旨によれば、同条項が「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する」場合を新規性喪失の例外事由としたのは、意匠を考案した者は、常に意匠登録の出願をするわけではなく、実際には、ひとまず、販売、展示、見本の頒布等により売行きを打診してみて、一般の需要の有無を確かめた後に、需要があるものについて意匠登録を出願するのが通常であるのに、このような販売、展示、見本の頒布等の行為によって新規性を喪失すると取り扱うことは、意匠の実情に合わず、意匠の考案者に酷であるので、このような場合に、新規性を失わないものとするためであると認められる。

これに対し、内外国において意匠の登録出願をした結果、意匠公報等に掲載されたということは、その出願の時点で既に出願の準備が完了していたということであるから、このような場合に新規性を失うものと取り扱っても、意匠の考案者に酷とはいえず、意匠法4条2項により、これを救済する実質的な必要性は認められない。

さらに、外国における出願の場合には、パリ条約4条A(1)、B、C(1)、(2)が適用され、出願の日から6か月間は、当該意匠の公表に基づく不利益扱いが禁止されているのであるから、この期間(優先期間)を徒過した者に、さらに意匠法4条2項を適用して、その後も一定期間、新規性を喪失しないとして、同様の保護を与えることは、パリ条約の趣旨に反し、権利者に過分の利益を与えることになり、ひいては、上記期間が徒過したと信じて行動した第三者に不測の損害をもたらすことがありうるので、許されないというべきである。

パリ条約 第4条 優先権
 A(1) いずれかの同盟国において正規に特許出願若しくは実用新案、意匠若しくは商標の登録出願をした者又はその承継人は、他の同盟国において出願をすることに関し、以下に定める期間中優先権を有する。
 B すなわち、A(1)に規定する期間の満了前に他の同盟国においてされた後の出願は、その間に行われた行為、例えば、他の出願、当該発明の公表又は実施、当該意匠に係る物品の販売、当該商標の使用等によって不利な取扱いを受けないものとし、また、これらの行為は、第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない。優先権の基礎となる最初の出願の日前に第三者が取得した権利に関しては、各同盟国の国内法令の定めるところによる。
 C(1) A(1)に規定する優先期間は、特許及び実用新案については12箇月、意匠及び商標については6箇月とする。
 (2) 優先期間は、最初の出願の日から開始する。出願の日は、期間に算入しない。

原告は、意匠法4条2項の適用を受けた意匠登録出願にはパリ条約4条Bに規定する効果がないので、過重な保護を与えることにはならない旨主張する。しかし、原告の解釈は、上記のとおり、当該意匠の公表に基づく不利益扱いの禁止に関する限り、実質的にパリ条約4条Bの定める期間を延長するのと同様の効果を生じさせるものであるから、その限度で保護が過重になることは、明らかである。

このようにみてくると、内外国特許公報等への掲載は、意匠法4条2項の「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する」場合には当たらないと解するのが相当であり、原告の主張は失当である。

なお、新規性喪失事由の例外を定めた特許法30条についても、同様の理由から、国内外の特許公報への掲載は、同条の「刊行物に発表」することに含まれないと解釈されている(最高裁第二小法廷平成元年11月10日判決・民集43巻10号1116頁参照)。意匠法の解釈についても、特許法と同様に解釈すべきことは前記説示したところから明らかであり、規定の文言の違いをとらえて、意匠法においては異なった解釈をするべきであるとの原告の主張は採用することができない。

 

3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき理由は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担、上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

 


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(作成2025.02.12、最終更新2025.02.12)
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包装用缶事件:包装・パッケージ業界の常識を考慮した意匠類否判断【動画】

包装用缶事件:包装・パッケージ業界の常識を考慮した意匠類否判断」について、解説動画をYouTubeに投稿しました(14分7秒)。

容量に応じたサイズ変更、色違いもある包装用容器(包装用缶)について、意匠の類否が争われた「包装用缶事件」を確認してみます。「包装(パッケージ)業界の常識」を考慮した類否判断がなされました。また、文字が意匠の構成要素となるかについても判断が示されました。

なお、再生速度は変更可能です。画面右下の歯車のアイコンをクリックいただき、1.25倍、1.5倍などに変更できます。
手っ取り早く動画内容を確認されたい場合、お試しください。

 


包装用缶事件:包装・パッケージ業界の常識を考慮した意匠類否判断【動画】

 


(作成2025.02.08、最終更新2025.02.08)
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