はじめに
- 特許出願の審査について規定する特許法第47条~第63条について、条文を解読してみます。
- 条文等は、本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。
- 本ページの解説動画1:特許法第47条~第48条の6の条文解読(特許出願の審査、出願審査の請求、優先審査など)【動画】
- 本ページの解説動画2:特許法第48条の7~第63条の条文解読(拒絶理由通知、拒絶査定、特許査定、補正却下など)【動画】
- 本ページの解説動画3:特許法第121条,第158条~第161条の条文解読(拒絶査定不服審判)【動画】(第53条の補正の却下について、特許庁の審判便覧に基づき、事例(具体例)を解説しています(2分20秒~)。)
目次
- 第47条(審査官による審査)
- 第48条(審査官の除斥)
- 第48条の2(特許出願の審査)
- 第48条の3(出願審査の請求)
- 第48条の4
- 第48条の5
- 第48条の6(優先審査)
- 第48条の7(文献公知発明に係る情報の記載についての通知)
- 第49条(拒絶の査定)
- 第50条(拒絶理由の通知)
- 第50条の2(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)
- 第51条(特許査定)
- 第52条(査定の方式)
- 第53条(補正の却下)
- 第54条(訴訟との関係)
- 第55条~第63条 削除
(審査官による審査)
第47条
特許庁長官は、審査官に特許出願を審査させなければならない。
- 実質的要件の審査(実体審査)に関する規定である。
- 形式的要件の審査(方式審査)では、要件不備の場合、特許庁長官による補正命令の後、手続却下の対象となる(第17条第3項、第18条)。
2 審査官の資格は、政令で定める。
- 経済産業省組織規則 第325条(審査官及び審査官補)
総務部、審査業務部、審査第一部、審査第二部、審査第三部及び審査第四部に、審査官及び審査官補を置く。
2 審査官は、命を受けて、特許、意匠登録及び商標登録の出願の審査並びに国際調査及び国際予備審査並びに実用新案技術評価書の作成に関する事務を処理する。
3 審査官補は、命を受けて、審査官を補佐し、特許、意匠登録及び商標登録の出願の審査並びに国際調査及び国際予備審査並びに実用新案技術評価書の作成に関する事務を処理する。
(審査官の除斥)
第48条
第139条(第六号及び第七号を除く。)(審判官の除斥)の規定は、審査官について準用する。
- (審判官の除斥)
第139条 審判官は、次の各号のいずれかに該当するときは、その職務の執行から除斥される。
一 審判官又はその配偶者若しくは配偶者であつた者が事件の当事者、参加人若しくは特許異議申立人であるとき、又はあつたとき。
二 審判官が事件の当事者、参加人若しくは特許異議申立人の四親等内の血族、三親等内の姻族若しくは同居の親族であるとき、又はあつたとき。
三 審判官が事件の当事者、参加人又は特許異議申立人の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人であるとき。
四 審判官が事件について証人又は鑑定人となつたとき。
五 審判官が事件について当事者、参加人若しくは特許異議申立人の代理人であるとき、又はあつたとき。
六 審判官が事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与したとき。
七 審判官が第67条第2項の延長登録の出願に係る事件についてその特許権に係る特許出願の審査においてその査定に審査官として関与したとき。
八 審判官が事件について直接の利害関係を有するとき。
(特許出願の審査)
第48条の2
特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求をまつて行なう。
- 特許の場合、出願しただけでは審査されず、別途、出願審査の請求が必要である。
(出願審査の請求)
第48条の3
特許出願があつたときは、
何人も、
その日から3年以内に、
特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。
- 何人も出願日から3年以内に出願審査の請求をすることができる。
- 国内優先権やパリ条約優先権の主張を伴う出願でも、(先の出願日ではなく)現実の出願日から3年である(【参考】第36条の2第2項括弧書き「特許出願の日」は適用されない)。
2
・第44条第1項(出願分割)の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、
・第46条第1項若しくは第2項(出願変更)の規定による出願の変更に係る特許出願
・又は第46条の2第1項(実用新案登録に基づく特許出願)の規定による実用新案登録に基づく特許出願
については、前項の期間の経過後であつても、
その特許出願の分割、出願の変更又は実用新案登録に基づく特許出願の日から30日以内に限り、
出願審査の請求をすることができる。
- 分割出願、変更出願、実用新案登録に基づく特許出願については、もとの出願日から3年経過後であっても、分割等による出願日から30日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。
3 出願審査の請求は、取り下げることができない。
4 第1項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかつたときは、
この特許出願は、取り下げたものとみなす。
- 出願日から3年以内に出願審査請求しないと、出願は取下扱いとなり、権利化できない。
- しかし、出願日から3年以内に出願審査請求せずに出願が取下扱いになっても、その前に、既に(出願日から1年6月経過時に)出願公開により、発明内容は公開されている。そのため、出願公開後に出願された後願については、同一発明であれば新規性違反として、また同一発明でなくても改良改変の程度によっては進歩性違反として排除することができる。また、出願公開されることで第29条の2の「拡大された先願の地位」を得られ、出願公開前に出願された後願(つまり自分の出願後ではあるが出願公開前に出願された他人の出願)についても、同一発明であれば排除することができる。従って、出願するだけで、審査を受けなくても、あるいは(審査を受けたが)特許にならなくても、少なくとも他人の権利化を阻止(後日の他人の出願を拒絶)できる。
- 出願による他者権利化阻止効果(防衛出願)
- 先願(特許法39条)と拡大先願(特許法29条の2)【動画】
5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、
第1項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をすることができなかつたことについて正当な理由があるときは、
経済産業省令で定める期間内に限り、出願審査の請求をすることができる。
- 特許法施行規則 第31条の2第4項
特許法第48条の3第5項(同条第7項において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の経済産業省令で定める期間は、同条第5項に規定する正当な理由がなくなつた日から2月とする。ただし、当該期間の末日が同条第1項に規定する期間(同条第7項において準用する場合にあつては、同条第2項に規定する期間。以下この項において同じ。)の経過後1年を超えるときは、同条第1項に規定する期間の経過後1年とする。
6 前項の規定によりされた出願審査の請求は、第1項に規定する期間が満了する時に特許庁長官にされたものとみなす。
7 前三項(第4項~第6項)の規定は、第2項に規定する期間内に出願審査の請求がなかつた場合に準用する。
- 第4項(期間内に審査請求がなかったときの出願取下擬制)、第5項(期間内に審査請求できなかったことに正当理由あるときの救済)、第6項(救済規定により審査請求されたときの扱い)の規定は、第2項(分割出願・変更出願・実用新案登録に基づく特許出願についての3年経過後の審査請求可能期間)内に出願審査の請求がなかった場合に準用する。
8 第5項(期間内に審査請求できなかったことに正当理由あるときの救済)(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定により特許出願について出願審査の請求をした場合において、その特許出願について特許権の設定の登録があつたときは、
「その特許出願が第4項(前項において準用する場合を含む。)の規定により取り下げられたものとみなされた旨が掲載された特許公報の発行後」「その特許出願について第5項の規定による出願審査の請求があつた旨が掲載された特許公報の発行前」に善意に日本国内において「当該発明の実施である事業をしている者」又は「その事業の準備をしている者」は、
その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、
その特許権について通常実施権を有する。
第48条の4
出願審査の請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならない。
一 請求人の「氏名又は名称」及び「住所又は居所」
二 出願審査の請求に係る特許出願の表示
第48条の5
特許庁長官は、
・出願公開前に出願審査の請求があつたときは出願公開の際又はその後遅滞なく、
・出願公開後に出願審査の請求があつたときはその後遅滞なく、
その旨を特許公報に掲載しなければならない。
- 公開特許公報のフロントページ(表紙)に「審査請求 未請求」のような表示があっても、それは出願公開前の情報ということになる。出願公開に間に合わなかった情報、出願公開後の審査請求は、別途、公報に掲載される。
2 特許庁長官は、
特許出願人でない者から出願審査の請求があつたときは、
その旨を特許出願人に通知しなければならない。
(優先審査)
第48条の6
特許庁長官は、
出願公開後に特許出願人でない者が業として特許出願に係る発明を実施していると認める場合において必要があるときは、
審査官にその特許出願を他の特許出願に優先して審査させることができる。
- 別途、特許庁の運用として「早期審査」がある。
(文献公知発明に係る情報の記載についての通知)
第48条の7
審査官は、
特許出願が第36条第4項第二号(先行技術文献情報開示要件)に規定する要件を満たしていないと認めるときは、
特許出願人に対し、その旨を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えることができる。
- 先行技術文献情報開示要件違反通知
- 第36条第4項
…発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 省略
二 その発明に関連する文献公知発明(第29条第1項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。
(拒絶の査定)
第49条
審査官は、
特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、
その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一 その特許出願の願書に添付した「明細書、特許請求の範囲又は図面」についてした補正が
・第17条の2第3項(新規事項追加禁止)
・又は第4項(シフト補正(発明の特別な技術的特徴を変更する補正)禁止)
に規定する要件を満たしていないとき。
二 その特許出願に係る発明が
・第25条(外国人の権利の享有)、
・第29条(発明該当性、産業上の利用可能性、新規性、進歩性)、
・第29条の2(拡大先願)、
・第32条(不特許事由(公序良俗・公衆衛生))、
・第38条(共同出願)
・又は第39条第1項から第4項まで(先願)
の規定により特許をすることができないものであるとき。
三 その特許出願に係る発明が条約の規定により特許をすることができないものであるとき。(条約違反)
四 その特許出願が
・第36条第4項第一号(【発明の詳細な説明の記載要件】実施可能要件、委任省令要件)
・若しくは第6項(【特許請求の範囲の記載要件】サポート要件、明確性要件、簡潔性要件、特許請求の範囲の記載に関する委任省令要件)
・又は第37条(発明の単一性)
に規定する要件を満たしていないとき。
五 前条(第48条の7:先行技術文献情報開示要件違反通知)の規定による通知をした場合であつて、
その特許出願が明細書についての補正又は意見書の提出によつてもなお第36条第4項第二号(先行技術文献情報開示要件)に規定する要件を満たすこととならないとき。
六 その特許出願が外国語書面出願である場合において、
当該特許出願の願書に添付した「明細書、特許請求の範囲又は図面」に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないとき。(原文新規事項追加禁止)
七 その特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき。(冒認出願)
- 【拒絶理由の詳細情報】上記各号の詳細、つまり特許出願の拒絶理由の詳細については、「特許拒絶理由(特許出願の拒絶理由【一覧】)」をご覧ください。
(拒絶理由の通知)
第50条
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、
特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。
ただし、
第17条の2第1項第一号(最初の拒絶理由通知応答期間内の補正)又は第三号(最後の拒絶理由通知応答期間内の補正)に掲げる場合(同項第一号(最初の拒絶理由通知応答期間内の補正)に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条(第50条の2:既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)の規定による通知をした場合に限る。)において、
第53条第1項(補正の却下)の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。
- 審査官は、拒絶査定をしようとするときは、出願人に対し、拒絶理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書提出の機会を与えなければならない。但し、「最初の拒絶理由通知の指定期間内の補正(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知を伴うものに限る)」又は「最後の拒絶理由通知の指定期間内の補正」が、補正却下の対象となる場合には、この限りでない(再度の拒絶理由通知は行わずに補正却下する)。
(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)
第50条の2
審査官は、
前条(第50条:拒絶理由の通知)の規定により特許出願について拒絶の理由を通知しようとする場合において、
当該拒絶の理由が、他の特許出願(当該特許出願と当該他の特許出願の少なくともいずれか一方に第44条第2項(分割出願の遡及効)の規定が適用されたことにより当該特許出願と同時にされたこととなつているものに限る。)についての前条(第159条第2項(拒絶査定不服審判)(第174条第2項(再審)において準用する場合を含む。)及び第163条第2項(前置審査)において準用する場合を含む。)の規定による通知(当該特許出願についての出願審査の請求前に当該特許出願の出願人がその内容を知り得る状態になかつたものを除く。)に係る拒絶の理由と同一であるときは、
その旨を併せて通知しなければならない。
- 分割出願制度の濫用防止を目的とする。
- 審査官は、拒絶理由を通知しようとする場合において、その拒絶理由が、他の特許出願についての拒絶理由通知の拒絶理由(他の出願審査において通知済みの拒絶理由)と同一であるときは、その旨を併せて通知しなければならない。
- 「他の特許出願」は、「当該特許出願」と「他の特許出願」の少なくともいずれか一方が分割出願で、両者が同時に出願されたこととなっているものに限る。
- 他の特許出願についての拒絶理由通知は、審査の他、前置審査、拒絶査定不服審判での通知も含まれる。
- 但し、出願審査請求前に出願人が他の特許出願の拒絶理由通知の内容を知り得る状態になかったものは除かれる。
- 本規定による通知を伴う拒絶理由通知に対する応答時、「最後の拒絶理由通知応答期間内の補正」や「拒絶査定不服審判請求時の補正」と同様に、特許請求の範囲についてする補正は、所定事項を目的とするものに限られる(第17条の2第5項)。(明細書・特許請求の範囲・図面の補正(条文解読))
(特許査定)
第51条
審査官は、
特許出願について拒絶の理由を発見しないときは、
特許をすべき旨の査定をしなければならない。
(査定の方式)
第52条
査定は、文書をもつて行い、かつ、理由を付さなければならない。
2 特許庁長官は、査定があつたときは、査定の謄本を特許出願人に送達しなければならない。
(補正の却下)
第53条
第17条の2第1項第一号(最初の拒絶理由通知応答期間内の補正)又は第三号(最後の拒絶理由通知応答期間内の補正)に掲げる場合(同項第一号(最初の拒絶理由通知応答期間内の補正)に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて第50条の2(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)の規定による通知をした場合に限る。)において、
願書に添付した「明細書、特許請求の範囲又は図面」についてした補正が第17条の2第3項から第6項まで(新規事項追加禁止、シフト補正禁止、目的外補正禁止、独立特許要件)の規定に違反しているものと
特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、
審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。
- 「最初の拒絶理由通知の指定期間内の補正(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知を伴うものに限る)」又は「最後の拒絶理由通知の指定期間内の補正」が、
第17条の2第3項(新規事項追加禁止)、第4項(シフト補正禁止)、第5項(目的外補正禁止(請求項の削除、特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明))、第6項(独立特許要件)の規定に違反しているものと
特許査定謄本送達前に認められたときは、
審査官は、決定をもってその補正を却下しなければならない。 - 補正却下により、補正前の状態へ戻るため、通知済みの拒絶理由を維持できる場合には、その拒絶理由により拒絶される。
- 下記解説動画では、第53条の補正の却下について、特許庁の審判便覧に基づき、事例(具体例)も解説しています(2分20秒~)。
>特許法第121条,第158条~第161条の条文解読(拒絶査定不服審判)【動画】
2 前項の規定による却下の決定は、文書をもつて行い、かつ、理由を付さなければならない。
3 第1項の規定による却下の決定に対しては、不服を申し立てることができない。
ただし、拒絶査定不服審判を請求した場合における審判においては、この限りでない。
(訴訟との関係)
第54条
審査において必要があると認めるときは、
『「特許異議の申立てについての決定」若しくは「審決」が確定し』、又は『訴訟手続が完結する』まで
その手続を中止することができる。
2 『訴えの提起』又は『「仮差押命令若しくは仮処分命令」の申立て』があつた場合において、
必要があると認めるときは、
裁判所は、査定が確定するまでその訴訟手続を中止することができる。
第55条~第63条 削除
(作成2021.07.30、最終更新2021.08.21)
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